新型コロナウイルスワクチンの接種は、国・地方を問わず、行政の総力を結集する一大プロジェクトだ。
昨年12月、経済産業省の生活物資等供給確保戦略室に特命が下った。「氷点下75度の超低温冷凍庫を作れるメーカーを探せ」
国内では、米製薬大手ファイザー社製のワクチンが最も早く薬事承認を受ける見込みだった。長期的に品質を保つには、超低温での冷凍保管が必要だ。冷凍庫が不足するとみた経産省は厚労省からの協力要請を待たず、先回りして動いた。
全国の市区町村数(1741)などを踏まえ、当初、必要な冷凍庫はざっと3000台とされた。経産省の担当者は冷凍機メーカー各社に片っ端から連絡を取り、「国難なので単価を上げても構いません」と増産を打診した。その際、遠慮がちにこう切り出した。「コンペティター(競争相手)を教えてもらえないでしょうか」。商売敵のことを聞くタブーを犯してでも、生産能力を持つメーカーは全て把握しておきたかった。
産業機械課係長の永井健寛は昨年12月21日、神奈川県相模原市の「カノウ冷機」に足を運んだ。「依頼があれば、最大限やらせてほしい」。社長の言葉に永井は胸をなで下ろした。この社だけで最大1730台を確保できるメドがついた。
その後、接種会場を増やすため、必要な冷凍庫の数は1万台に膨らんだ。それでも初動が早かったことが幸いし、6月末までには対応できる見通しだ。
現場で接種にあたる自治体にとって、いつ、どれだけ打てるかもあいまいなワクチン接種は「投票率100%の選挙より難しい」(総務省幹部)と評される。
「自治体からの問い合わせが2000~3000件、手つかずのままです」
1月下旬、ワクチン担当の行政・規制改革相の河野太郎らは、厚労省の説明に耳を疑った。
接種事業に不安を抱く自治体が照会をかけても、厚労省は「人手が足りず、電話すら取れない」というパンク状態だった。
そんな中、国と地方のパイプ役を果たしたのが総務省だった。新型コロナ対応のため、課長級の職員らと都道府県・政令市の幹部を結ぶ「連絡体制」を敷く。特に旧自治省出身者は入省直後から地方出向を繰り返し、現地の知事や議会トップとのパイプを持つ者が多い。「財政や人事も目配りでき、厚労省とは違った視点でものが見える」(幹部)という強みを持つ。
「今の予算ではワクチン接種事業は回せない」「ワクチンを診療所に小分けして運べないか」「接種を担う医師はどう確保すればいいか」――。地方からのSOSが、総務省経由で首相官邸に届くことも多かった。