ギャラリーで作品を展示する女性作家が、男性客から性的な言葉をかけられたり、食事に誘われたりする被害に悩まされている。「アートストーカー」「ギャラリーストーカー」とも呼ばれ、ギャラリーも対応に追われている。写真家のマキエマキさんは、わざといやらしい言葉を言ってきたり、長時間つきまとってきたりする客に悩まされてきた。「嫌だと女性が伝えても、相手は耳を貸さない」と頭を抱える。こうした客に対し、東京都板橋区の画廊喫茶「カフェ百日紅」は、店長がきぜんと対応することで作家を守っている。悪質な客の実態とは--。【中嶋真希】
「性的なことを言ってきたり、プライベートなことを聞いてきたり……。ほかにも、女性に写真は撮れないと思っているのか、セルフポートレート展だと銘打っているのに『旦那さんが撮ったんでしょ』と言ってくることもあるんですよ」
そう憤るのは、自らを「自撮り熟女」と名乗り、昭和を思わせる作風のセルフポートレートの撮影を続けている写真家のマキエマキさんだ。初めてポートレート作品を展示した2016年1月から、ギャラリーストーカーの存在に悩まされてきた。グループ展に参加していた女性作家を捕まえては話しかけていた男性客が、マキエさんのぬれたシャツを着たセミヌードの作品について、わざと「乳首が見えていますよ」と声をかけてきた。からかったつもりだったのだろう。「はい、そうですよ」と答えると、相手は黙ってしまったという。
その後もグループ展や個展で、似たような男性客が頻発した。「乳首が見えている」と声をかけてくる男性は、何人も続いた。
「性的な下心を持って、タダでギャラリーに入って相手をしてもらおうと思っているのでは」。500円の入場料をとるようになると被害はぐっと減ったが、それでもゼロにはならない。
今年2月に開いたグループ展では入場料を徴収したが、ほかの女性作家が男性客からしつこく食事に誘われたり、「もっと肌の露出の多い作品を撮らなくちゃだめだ」ということを直接的な表現で言われたり、まとわりつかれるのを目撃した。マキエさんが「やめてください」とはっきり伝えたが、嫌がらせは続き、その日は夜まで在廊予定だったのを切り上げ、ほかの女性作家たちと一緒に帰った。
「展示会場でモデルや女性作家に粘着したり、食事に誘うのはやめてください。展示会場はキャバクラではありません」「エロい目で見るのは心の中だけにとどめてください。楽しくクリエーティブに交流しましょう」--。マキエさんは、ツイッターに投稿し、注意喚起した。
セクハラ被害だけではない。マキエさんは、作家としてのチャンスが奪われることも危惧する。「作家は、作品を売るために、出展料を払っている。ギャラリーは、作品を買ってもらうための場所」とマキエさんは言う。「しつこく拘束されることで、ほかの作品を買いたいという人や、仕事を依頼したいという人が話しかけられなくなることもある」
一方で、作品を買ったのだからと食事に誘ったり長時間話しかけたりしてくる人もおり、マキエさんは頭を悩ませる。
「はっきり嫌だと伝えるしかないが、女性が言っても耳を貸さない。ギャラリー側に、こうした客を強制的に退場させてもらうのが最も効果的」とマキエさんは言う。「もし作家が長い時間捕まっていたら、周囲の人も一声かけてほしい」と訴える。
迷惑行為に注意 ギャラリーも取り組み
ギャラリーも、悪質な客を黙って見過ごしているわけではない。東京都板橋区の画廊喫茶「カフェ百日紅」は、作家に嫌がらせをする客にはきぜんと対応している。店長でイラストレーターの目玉堂さんは、女性作家に性的なことを言う人には「これ以上失礼なことを言ったら警察を呼ぶ」と伝えたり、再度入店させなかったりなどの対応をとっている。
目玉堂さんは、「ほとんどのお客さんが紳士的。ほんの一部の人のせいで、みんなの居心地が悪くなってしまう」とため息をつく。目玉堂さんは09年に店を開く前からギャラリーストーカーが存在すると聞いていたが、自分の店を持ってその実態を目の当たりにした。これまで、女性作家がポストカードを買った客に握手を求められ、応じたら手だけでなく腕をなでられた、ほかの客がいないすきを狙って食事に誘われた、作家とすれ違うふりをして手の甲で体を触られた--といった事例があった。
同店は、定員10人ほどで、展示を見ながらハンドドリップのコーヒーや、スコーンなどのデザートが楽しめる。エロチックやゴシック、耽美(たんび)系の作品展示が中心。「このジャンルは、受け入れてくれるギャラリーが多くはない。ここなら展示ができると口コミで広がり、女性作家の利用が多い」と目玉堂さん。「女性がエロチックなアートを楽しめないのはおかしい。性別に関係なく、アートを楽しんでもらう空間にしたい」という目玉堂さんの願いが込められた空間となっており、常連客が「この写真いいよね」と語り合ったり、近所の人がふらっとお茶を飲みに来たりと、アットホームな雰囲気が魅力だ。
「安心して一息つける場所にしたい」と思うからこそ、「作家に対する卑劣な行為は、相手を人間と思っていないのではないか」と怒りをあらわにする。
目玉堂さんは、悪質な客を見つけたらすぐに注意するが、キッチンにいて気づけないこともある。常連客がこっそり教えてくれることもあり、すぐに「やめてください」と注意しているという。作家が客に長時間つきまとわれているのを見たら、「ちょっとお買い物行ってきてもらっていい?」と作家に頼み、外に逃がすこともある。事前に、作家から「よく展示を見に来るストーカーがいる」と聞かされることもあり、入店させないように注意深くチェックしているという。
「発表する場がない、あったとしても、展示をするとギャラリーストーカーの被害にあってしまうという作家は、うちに来てほしい」と目玉堂さんは言う。「女性作家が展示をする場合は、ギャラリーがストーカー対応をすべきだ。また、周囲の男性も、女性が何か言われて固まっていたら、嫌なことを言われたんだと気づいてほしい。割って入って助けてあげて」と訴えていた。
「ギャラリーストーカー」テーマにトークイベント
マキエマキさんは27日午後2時、元AV女優でアーティストの大塚咲さんとギャラリーストーカーをテーマにしたトークイベントを開催する。東京・高円寺の「高円寺パンディット」で、前売り2500円。配信チケットも販売中。詳細は、http://pundit.jp/events/5292/?fbclid=IwAR3icasq0qXSBpBSSUjxRj5TXQOjHc7sBk7HkmdTXJn0bIKE0AJyiLlIkXU