【ニュースの核心】尖閣防衛、無防備な現状は中国への誘い水 危害射撃の方針も…日本の実弾発射は考えられない なぜ平時のうちに部隊を配置しないのか

日本は本気で沖縄県の尖閣諸島を守るつもりがあるのだろうか。先週のコラムで「日本は中国を相手に先に武力を行使する覚悟があるのか」と書いたが、その後、防衛白書などを読んでみて、改めて疑念が湧いてきた。
2020年版の防衛白書には、何と書かれていたか。
「事前に兆候を得たならば、侵攻が予想される地域に、敵に先んじて部隊を機動・展開し、侵攻部隊の接近・上陸を阻止することとしている。また海上優勢、航空優勢の確保が困難な状況になった場合でも、侵攻部隊の脅威圏の外から、その接近・上陸を阻止することとしている」「万が一占拠された場合には、航空機や艦艇による対地射撃により敵を制圧した後、陸自部隊を着上陸させるなど、あらゆる措置を講じて奪回する」
これを読めば、尖閣諸島が奪われた場合、直ちに自衛隊が出撃して、奪還するように読める。ところが、実際にはそうならないようだ。
政府は2月25日に開かれた自民党国防部会・安全保障調査会の合同会議で、中国海警局船が島への上陸を強行した場合、まずは海上保安庁が「凶悪犯罪」と認定して、警察官職務執行法に基づいて「危害射撃」による制圧を試みる方針と報じられた。
これでは、もう最初の認識からして、ズレている、と言わざるを得ない。彼らの目的は、日本の施政権否定である。尖閣諸島への日米安保条約適用は、日本の施政権行使が大前提になっているからだ。米国が介入できないように、中国が島を支配する既成事実をつくろうとしているのだ。
それを指摘したうえで、残念ながら、海上保安庁は上陸した犯人たちを逮捕できなかったとしよう。となると、防衛白書が書いたような奪回作戦にならざるを得ない。さて、日本は自衛隊を出動させて、航空機や艦艇による対地攻撃に踏み切れるのか。
ここが、最大の問題だ。
中国側が闇夜にまぎれて上陸すれば、先に武力行使するのは日本になる。だが、憲法改正はもとより、限定的な安全保障法制の策定でさえ大騒ぎになった日本が、中国相手にいきなり実弾発射など、私にはとても考えられない。
それより、平時のうちに島に部隊を配置して、事前に侵攻を抑止する方策を、なぜ採用できないのか。武力行使に比べれば、はるかに平和的で、かつ効果的ではないか。それすらできていないのに、過激な武力行使など、政策の優先順位としても本末転倒だ。
事態は生易しくない。
中国は海警法を施行し、武器の使用も、管轄する領土、領海での構造物撤去も可能にした。薄皮を1枚ずつ剥がすように、攻勢に出ている。
いまの無防備状態は、むしろ中国に「どうぞ、いつでも侵攻してください」と誘い水を送っているようなものだ。真空状態が戦いを誘発するのは、歴史の教訓だ。
平和愛好のポーズを続けながら、いざとなったら、180度方針転換して奪回作戦などと、現実無視の建前論を振りかざすのは、もういい加減にすべきである。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。