防災士10年で4倍増 石川県内 行政と地域の連携強化

地震や津波によって多くの犠牲者を出した東日本大震災は、各地の自治体が防災対策を見つめ直すきっかけになった。石川県内では大震災後、災害時に地域で中心的な役割が期待される「防災士」の数が4倍以上に増加し、行政と地域との連携体制にも厚みが加わるなど災害への備えが進む。一方、災害後の復旧・復興に不可欠な地籍調査の進捗(しんちょく)率は土地の10%台にとどまるなど分野ごとの差も浮かび上がっている。【阿部弘賢】
資格取得に補助
災害発生時に公的支援が来るまで被害の拡大を食い止めたり、平時に地域で防災意識の啓発を行ったりする際の要と期待されるのが防災士だ。防災士はNPO「日本防災士機構」が認定する民間資格で、県内では07年3月の能登半島地震を契機に育成が進んでいる。
県は資格取得に必要な研修を08年度から県内で開催し、受講費用も補助。能登や加賀地域を含め年複数回開き、県民の受講機会を増やしている。こうした支援などもあり、防災士は10年間で1562人から6765人へと4倍以上に増加。県は、県内に約4000ある各町内会に防災士3人がいる割合を目安に、24年までに1万2000人の育成を目指している。
地域社会との連携は、災害時の応援協定の数にも表れる。物資調達や医療提供などの分野で民間団体と結んだ協定は、11年の86件(90団体)から21年の137件(150団体)へ1・5倍に増えた。
災害派遣医療チーム(DMAT)の数もほぼ倍増した。
被災時、自治体が災害対策本部や物資の中継拠点、大規模避難所などを構える公共施設の耐震化も進んでいる。県と市町の防災拠点となる公共施設の耐震化率は19年3月時点で95・7%と11年当時から20ポイント以上上昇。県施設526棟全てで基準を満たし、市町施設は2239棟のうち2119棟の耐震化が完了した。
避難所などに使われる公立学校の耐震化も、公立小中学校で77%から99・6%(20年4月)、公立高校で83・4%から100%(同)とほぼ耐震化は完了している。一方、避難所数は、13年に改正された災害対策基本法で安全性などの基準を満たすものを新たに指定するようになったため、10年前から大きく減った。
進まぬ地籍調査
東日本大震災の復興では土地の権利関係が不明確で、土地の収用や移転の遅れにつながるケースもあった。このために国は土地一筆ごとに面積や境界、所有者を確認する地籍調査を進めるよう自治体に促しているが、県内では全土の15・5%(19年度末)で、10年前から2・5ポイントしか向上していない。全国平均(52%)には及ばず、最下位グループに属する。
調査が進まない背景には、実施主体の市町の人員や財源の不足などがある。19市町のうち完了したのは野々市市のみで、調査中は金沢市など10市町。輪島市など7市町は調査を休止し、珠洲市は依然未着手のままだ。
ただ人口集中地区に限れば、県内の進捗(しんちょく)率は53%に。県の担当者は「被災時に効果が高まるように、市街地での調査を優先的に進めたい」と話す。
18年7月の西日本豪雨では被災地でため池の決壊が相次いだ。県内では大きな河川が少ない能登地方でため池が多く見られるが、能登半島地震や同年の豪雨ではため池の堤防が一部崩れる被害も確認された。
県は決壊時に下流域の被害を軽減するため、19~20年度の2年間で使われていないため池154カ所を順次撤去している。こうした取り組みの効果などもあり、ため池は800カ所以上減っている。
防災力生かす訓練を
金沢大・宮島昌克教授(防災工学)
東日本大震災をきっかけに各自治体が数値目標を定めて積極的に「防災力」の向上に努めてきた。その成果は各指標の数字にも表れている。
今後、大切になってくるのは、そうしたハードやソフトの防災力を災害時に有効に活用するための準備や訓練だ。そこは数字では見えない部分だが、しっかりと進めておかなければいけない。
県内は、太平洋側ほど地震の発生頻度は高くはない。だが、例えば一昨年の豪雪や全国で多発する豪雨のような災害で防災士が活躍できる場はある。そうした頻度の高い他の災害で経験を積むことによって、いざ大地震が来た時の対応能力や防災意識を高めることができるはずだ。
1995年の阪神・淡路大震災では、地域力の高い所ほど復興が早かった。平時から近所付き合いなどを通じて地域のコミュニティー力を高め、自分たちの街は自分たちで守るという意識を共有しておくことも大切だ。【聞き手・阿部弘賢】