「瀬戸内海は見すてられた」 伊方3号機決定取り消しに怒りと落胆

原発差し止めを求めた住民の願いは届かなかった。広島高裁の仮処分決定を取り消し、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転を認めた18日の異議審決定。申し立てた3人は原発から30~40キロ圏内の離島で暮らしながら、地震や火山による事故リスクを訴えてきた。「裁判所は正面から向き合っていない」。住民や支援者らの落胆が広がった。
午後2時すぎ。運転差し止め命令を取り消す決定が出されると、広島高裁(広島市中区)前に集まった支援者らは「不当決定」「瀬戸内海は見棄(す)てられた」と書かれた垂れ幕を掲げ、「許せない」との声も上がった。
2020年1月の高裁決定は、原発近くに活断層がある可能性や、約130キロ離れた阿蘇山(熊本県)の噴火リスクについて四電の評価が不十分だと指摘した。しかし、異議審の決定は「独自の科学的知見のない裁判所が(事故の)具体的危険があると推認するのは相当でない」として積極的な評価を避けた。
弁護団の中村覚・共同代表は高裁前で、「司法の意義が問われる裁判で、(住民の主張に)正面から向き合ってくれなかった。極めて不当な決定だ」と怒りをあらわにした。
その後開かれた集会には、申立人の青木シヅエさん(85)=山口県柳井市=と橋本久男さん(69)=同県上関町=もウェブ会議システムを通じて参加した。
青木さんは伊方原発から北へ約30キロの平郡島(へいぐんとう)に生まれ、広島の短大で学んだ。結婚後34年間は長崎に住み、核兵器廃絶を求める運動に参加。被爆者の体内に取り込まれた放射性物質が健康をむしばんでいると知った。
58歳で島に戻ると、西へ約13キロ離れた上関町で、中国電力が原発建設計画を進めていた。「大地震が起きて伊方と上関で原発事故が相次いだら、どこに逃げろというのか」。17年、山口地裁岩国支部に伊方原発の運転差し止めを求める仮処分を申し立て、訴訟も起こした。
今回の決定で住民らの主張は認められなかったが、訴訟は今も続いている。青木さんは、「いつまで健康でいられるか分からないが、子どもたちに負の遺産を残さないためにも活動は続ける」と声を振り絞った。
上関町の祝島(いわいしま)で漁業などを営む橋本さんは、中学卒業後に島を一時離れ、1980年代には日本原子力発電敦賀原発(福井県敦賀市)で配管作業をした経験を持つ。橋本さんは「放っておけば『第2の福島原発事故』が起こりかねない。頑張りたい」と今後に望みを託した。
大分訴訟の原告共同代表「酷な決定」
伊方原発から豊後水道を挟んで対岸にある大分県。大分地裁で審理中の伊方原発3号機の運転差し止め訴訟で原告団共同代表を務める松本文六さん(78)=大分市=は「住民の安全を無視する決定になり、納得いかない。一度停止が決まったのに足をすくわれるような酷な決定だ」と憤った。
また、同じ共同代表の中山田さつきさん(66)=大分県杵築市=も「裁判官は原発の近くに住む市井の人の不安や恐怖を分かっていない。市民感覚ともずれているのではないか」と話した。
四電「愚直に説明していきたい」
一方、四電側は安堵(あんど)の色が広がった。高裁前で報道陣の取材に応じた原子力部の佐川憲司副部長は、「伊方3号機の安全性は確保されているとの主張が認められた」とする長井啓介社長のコメントを読み上げ、「原発は電力を安定供給する基盤だ。不安もあろうかと思うので、安全対策については愚直に説明していきたい」と述べた。
伊方町の高門清彦町長は異議審の決定について明言を避けたが、「原発が動いているか、止まっているかにかかわらず、安心・安全は大前提だ。(四電には)稼働に向けて準備してもらいたい。まちづくりへの協力も引き続きお願いしたい」と述べた。【脇山隆俊、小山美砂、中島昭浩、木島諒子、河慧琳】