「最強の捜査機関」と呼ばれた東京地検特捜部。そんな特捜部を取材対象とする検察記者。両者が鎬を削っていたのも今は昔――。
菅原一秀前経産相が選挙区内の有権者に香典などを渡していた公職選挙法違反事件。東京第四検察審査会は3月12日、検察が不起訴(起訴猶予)とした菅原氏について「起訴相当」と議決したと発表した。特捜部が再捜査して再び不起訴としても、2回目の審査で審査員11人中8人以上が起訴を求めれば、菅原氏は強制的に起訴される。
最近の検察は政治家案件の場合、官邸の顔色を窺いがちだ。何かと理屈をつけて不起訴としたものの、検審に持ち込まれ、結局、起訴される例も目立つ。では、そうした検察の弱腰を検察記者が厳しく監視できているかと言えば、心もとない。
それが浮き彫りになったのが、菅原氏の起訴相当を報じた朝日新聞13日付朝刊だ。記事によれば、19年10月に男性が告発状を提出したが、地検は昨年6月になって「具体的な事実が特定されていない」と告発状を返却。約2週間後、独自に捜査した事件として不起訴とした。検察の対応を検審は「疑問を抱かざるを得ない」と批判。告発者でないと検審に申し立てる資格がないため、検審は男性の申し立てを却下した上で、代わりに職権で審査する異例の形をとったという。
しかし、本来なら、検察が「検審逃れ」という姑息な手段を取ったことを、検察記者はいち早く掴み、厳しく報じるべきではないか。ただ、発表を垂れ流すことだけが仕事ではないはずだ。
黒川氏はなぜ「略式起訴」となったのか?
検察と検察記者。そのあり方が焦点となったもう一つの事件が、黒川弘務元検事長の賭け麻雀問題に他ならない。3月13日には、東京地検が黒川氏を単純賭博罪で略式起訴する方針を固めたと報じられた。検察が下した起訴猶予処分に対し、東京第六検察審査会が「起訴相当」と議決し、地検が再捜査していた事件だ。
なぜ地検は判断を一転させたのか。結局、ここでも検審の意向を無視できなかった。一方で、黒川氏はヤメ検弁護士に転身するという。禁錮以上の刑が確定すれば弁護士資格は剥奪されるが、罰金刑で済めば正式な裁判が開かれず、弁護士としての活動も可能だ。これらの事情も踏まえ、地検と黒川氏側で“落とし所”を探った結果、今回、略式起訴となったと見られる。
退官後、「ジャーナリズムは死んでいますよ」と“恨み節”を語っていたという黒川氏。それは彼の知るジャーナリズムが、記者と麻雀で“馴れ合う”ことだからだったのだろう。だが、ジャーナリズムとは、仮に麻雀を重ねても黒川氏の真実を書き切ることではないか。
菅原氏と黒川氏。二つの事件を通じ、検察と検察記者のあり方が問われている。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年3月25日号)