報酬アップは地方議員なり手不足解消の特効薬にあらず

中国山地に抱かれた人口6500人足らずの鳥取県智頭(ちづ)町で、議会でいったん可決した議員報酬引き上げが2年延期に追い込まれた。議員のなり手不足解消がねらいだったが、住民が「説明不足」などと反発し白紙撤回を求める署名活動に発展したためだ。引き上げに関して議会は、第三者で構成する審議会に諮問し、議論は「議会だより」で町民に周知しており、大河原昭洋議長は「引き上げの手続きに不備はなかった」とする。議会と反対住民の“ボタン”はどこで掛け違ったのか。
有権者の2割が反対署名
「月額報酬22万9千円を5万1千円引き上げ、28万円とする」。そんな条例改正案が議長を除く「9対2」で可決されたのは昨年9月議会。施行は改選後の令和3年7月30日とした。
発端は、無投票となった平成29年の前回町議選(定数12)だった。住民の政治への関心が高いとされた同町で無投票は異常事態。議会衰退を懸念した町議会は、翌年の12月議会で「議会改革に関する調査特別委員会」を設立し、議会活性化の検討を始めた。その中で議員報酬や定数の問題が俎上に載り、令和元年に鳥取大准教授や町民らで構成する「特別職の報酬等に関する審議会」に諮問。その結果、「報酬は増額、定数は現状維持」の答申が示された。
これを踏まえて同特別委は2年3月議会で、若い人や働き盛りの人が立候補しやすい環境づくりとして議員報酬の増額を議会に報告し、9月に可決したのだった。こうした経緯は「議会だより」を通じて随時町民に広報されていた。
ところが、可決後の昨年10月に開催した議会報告会で、白紙撤回を含めて報酬引き上げに反対する厳しい意見が住民から噴出。住民団体「智頭の住民活動を考える会」が結成され、条例の改廃を請求する署名活動を展開し、有権者の2割にあたる1167人の署名が集まった。
請求代表者として今年3月議会で意見陳述した同会の宮本行雄代表は「議決に至るまで住民説明がなく、引き上げ額の根拠が不明。報酬引き上げに値する議会や議会活動とは思えない。町の財政面でも懸念がある」などと引き上げの問題点を列挙した。
報酬28万円は町職員並み
議員のなり手不足は全国的な課題だ。全国町村議会議長会が学識経験者らに依頼してまとめた「町村議会議員の議員報酬等のあり方最終報告」(平成31年3月)によると、平成2年の町村議員調査で議員の仕事について「奉仕的な性格が強い」の回答が72・6%を占めたのに対し、23年調査では「ボランティアと同じでよいとは思わない」が80・8%に達し、名誉職的な考え方からの意識変化が如実に表れた。背景には、議員定数の減少による業務増や地方分権の進展による業務の高度化・専門化で、議員活動に費やす時間が増加したことがある。
こうした変化とは別に、総務省の31年調査によると、鳥取県内町村議員の平均報酬は22万1473円で、県議の77万9千円、市議の43万4371円と比べると格段に低く、専業で生活するには厳しいのが実態。政務活動費の支給もなく議員活動費用は基本的に報酬で賄っている。引き上げ後の報酬28万円は町職員(一般行政職)の平均給料月額に準じ審議会が答申した額だ。
一方、最終報告によると、平成23~29年の6年間で全体の1割を上回る全国95議会が報酬を増額していたが、報酬検討過程で懇談会や報告会などの住民参加を実施した議会の引き上げ実施率が高いことが特徴としてあげられた。最終報告は、議員報酬改定について「住民からの批判が多いテーマへの説明責任という意味があり、住民と考えることが望ましい」と指摘する。
智頭町議会では、特別委が引き上げの結論を出したあとの昨年5月、町民向けの議会報告会を開催予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で開けず、町民へ直接、説明する機会がなかった。このため、議会だよりだけの報告となってしまった。それに加え、もともと「議会活動がみえない」と不満を抱いていた町民が反発したのが今回の事態の背景にあるようだ。
2年延期したが再度の検討も
同町議会は、住民団体の指摘も踏まえて、議会の報告会の開催を来年度以降、現在の6地区から町内全87集落へ変更し「議会の見える化」を図る。さらに、議員活動の詳細な記録を全議員が行って引き上げの根拠とする方針を打ち出した。
今月22日に閉会した3月議会では結局、署名を受けた議員報酬の引き上げ撤回議案を否決し、議員発議の報酬引き上げ条例実施の2年延期を可決した。大河原議長は「2年延期の間に、住民と意見交換し理解を得る活動を展開する。2年後に無条件に引き上げるのではなく、その時点で再度考える。町財政の状況を見てアップを見送ることだってある」と話した。
一連の騒動は結果的に、議会と住民の間の距離を縮め、議会が本来果たすべき役割を作動させる引き金となった形だ。