異論にも耳を傾けて NHK聖火リレー消音、市民団体が訴え

東京オリンピックの開幕まで3カ月を切った。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中での開催を疑問視する声もある。長野市では、聖火リレーの沿道で抗議活動をした市民グループの声が、NHKの中継から消される問題が起きた。異論にも耳を傾けてほしいと、メンバーらは訴えている。【皆川真仁】
五輪開催への抗議活動を行ったのは市民グループ「オリンピックいらない人たちネットワーク」。長野冬季五輪(1998年)でも、開発による自然環境の破壊の懸念などから、反対運動を展開した。政府はワクチン接種を急ぐが、グループは、新型コロナの収束が見通せない中での東京五輪開催にも反対している。
4月1日夜、長野市中心部で聖火リレーがあった。グループは沿道から、「オリンピックに反対」「オリンピックはいらないぞ」と抗議の声を上げた。その時のNHK特設サイトの中継映像を確認すると、約30秒間にわたって音声が消されているのだ。「公共放送という立場で許されることなのか」。メンバーの憤りは収まらない。
メンバーら5人は4月16日、NHK長野放送局(長野市)を訪れ、高谷智泰・副局長に抗議文を手渡し、音を消した理由と経緯について詳しい説明を求めた。江沢正雄さん(71)=長野市=は「少数の意見をきちんと反映していくのが公共放送であり、民主主義の根幹だ」と述べた。
メンバーらは約30分にわたって意見をぶつけた。「五輪に賛同するムードを作っていく手法は良くない。政権に、そんたくだけしているNHKであっては絶対にならない」などと主張したが、高谷副局長は「見解を出せる立場にない。担当部局に伝える」と繰り返し、話し合いは平行線に終わった。
NHKは後日、グループに対し文書で回答を寄せた。中継サイトについて「ランナーの方々の地域への思いなどを丁寧に伝えることを目的に実施しています」とし、消音を巡っては「聖火ランナー走行中の映像や音声については、ランナーの方々への配慮も含め、状況に応じ対応しています」と答えた。
五輪開催を疑問視する意見については「さまざまな意見については、これまでもニュースや番組などで取り上げておりますが、今後も、意見が対立している問題については、放送法や倫理・行動憲章、放送ガイドラインを踏まえ、できるだけ多くの角度から論点を明らかにしてまいります」としている。
だが、グループは「質問したことにほとんど回答していない」と批判。音が消された具体的な経緯は不明なままだ。メンバーの岡嵜(おかざき)啓子さん(67)は「五輪に反対する集会を開くなど、今後の対応を考えている」と話した。