困ったときの自衛隊頼みも…報われない日々に医師ら退職、防衛医大受験者減の現状 「ワクチン接種」なら国は態勢整備を

菅義偉首相は27日、岸信夫防衛相に対し、新型コロナウイルスのワクチン接種を迅速に進めるため、東京都内に大規模接種センターを5月24日を目標に開設するよう指示した。自衛隊の医師資格を有する医官や看護師資格を持つ看護官がワクチン接種に従事する。大阪府を中心とする地域のセンター開設も検討する。困ったときの「自衛隊頼み」の問題点について、国防ジャーナリストの小笠原理恵氏が緊急寄稿した。

新型コロナは、ワクチンによる集団免疫を獲得できれば終息する。イスラエルでは、9割の国民が2回のワクチン接種を終え、屋外でのマスク着用義務を撤廃した。
これに対し、日本では医療従事者に加え、65歳以上の高齢者接種が4月12日から始まったが、ワクチン管理システムの欠陥が相次ぎ、1~3カ月予約待ちだそうだ。
こうしたなか、自衛隊の医療スタッフが災害派遣の名目でワクチン接種支援を行う。ウイルスの攻撃から国民の命を守ることも「国防」と考えれば、自衛隊投入は理にかなっている。
しかし、自衛隊の本分である防衛力が削がれるのでは本末転倒だ。ワクチン接種で人手をとられる分、自衛隊員の増員に国は力を注いでほしい。
大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染から、国はコロナ禍で、自衛隊の医療スタッフを便利に使ってきた。だが、それとは逆行するかたちで、5つの自衛隊病院が縮小や廃止となった。拠点を減らせば人員数もいずれ減らされる。
政府関係者から最近、自衛隊中央病院(東京都世田谷区)で医師数人を含む多数の医療スタッフが依願退職したと聞いた。コロナの重症者対応に不眠不休で戦ってくれた精鋭医療スタッフも、やはり人間だ。命の危険を顧みず、最前線で未知のウイルスと戦ってきたが、報われない日々に心が折れてしまったのではないか。
■医師ら退職、受験者減
防衛医科大学校(埼玉県所沢市)の予算も削られ、受験者の数も減った。医療スタッフの教育機関も黄色信号だ。かつてはトップクラスの医師国家試験合格率を誇っていたが、2019年では68位(21年は8位)となり、輝かしい歴史にも陰りが出てきた。
民間の医療機関と同程度の賃金と待遇を保障しなければ、国民の命を守る自衛隊医療スタッフの数は確保できない。自衛官の「崇高な使命感」に頼るだけでなく、国は態勢を整備すべきだ。
自治体は、自衛隊員募集協力を委託されている。ワクチン接種支援時に自衛隊員募集広報も実施してはどうか。今回のワクチン接種を活用して、「迷彩服が怖い」と感じる人が少なくなり、自衛隊を目指す人が増えれば感無量なのだが。