なんで国民の健康のためのコロナ対策よりもオリンピック開催が優先されるの?

いやあまあ、オリンピックをやるからにはちゃんとやったほうがいい、とは思うんですよ。
でもそれ、「いま」「今年の夏」である必要はあるんですかね、という話をしたいんです。
だってね、東京で暮らしてると酒場に一杯やりに来たのに酒を禁じられて、電気消されるんですよ。小池百合子さんはワイの母ちゃんか誰かですか。なんだろう、この踏んだり蹴ったり。まあもちろん感染症対策は大事だよねと言われればその通りですし、ヒトとの接触を減らすために、無理筋と分かって各種政策を取らざるを得ない政治の立場も分からないでもない。
信長の野望で言えば民忠が下がって一揆が起きるレベルですよね。
自分はコロナに感染しない、感染してもどうにかなるだろうと思う人々
あまりにも対策を詰められるので、友達の酒飲みはわざわざ京急線に乗って川崎まで酒を飲みに行っていました。酔っ払って「町田も神奈川に割譲いいでしょ」「池袋は西武線や埼京線で前線に送り込まれた埼玉県民によって占領された」ので「町田や池袋は東京都ではないので、酒を飲む分にはかまわないのではないか」などと物騒なことを言い始める始末です。酒を飲みたいがためだけにそこまでやるのか、と思わずにはいられません。
接触を減らすために繁華街に出ないようにしようと対策したら、今度は路上で酒を飲む人が出たり、店舗の側にも「酒類の持ち込みOK」などというゲリラが発生しています。クソみたいな政策を打たなければならないところに追いつめられた政府や都道府県・自治体ですが、クソみたいなトンチでどうにかして外で酒を飲みたい日本国民の間ではコロナそっちのけの騒動に発展しました。
問題は「酒を飲むな」ではなく、「酒を飲むなどして騒いで人と接触を深めて感染症のクラスターになるな」のはずなんですけど、酒を飲んで騒いでいるアホのために自宅で慎ましくしてる下戸の皆さんはとばっちりです。政策を打つ側も大勢で酒を飲みたい国民の側も、コロナ以前に脳みそが溶けているのではないかと心配になります。本来はとても怖ろしいはずの感染症への拡大防止策は国家ぐるみの壮大なギャグの様相を呈しており、「お願いベース」では1年と緊張感を持ち続けることはできなかったということになります。
もちろん、ヒトとの接触を圧倒的に減らさなければ、感染力が強く、おそらく若い人でも重症化しやすいほど強毒化したように見える変異ウイルスの蔓延には対抗できないのでしょう。それは分かるんですが、人々の行動を見ていると、コロナ疲れというよりは、自分はコロナに感染しない前提だったり、感染してもどうにかなるだろうという気持ちで気軽に外出したり、通勤したり、子どもを送迎したりしているんだと思います。
それもこれも、ワクチン接種が国民全体に広がり、その高い効果で文字通りコロナ流行を抑え込んで日常的な生活に戻ることができたイギリスやイスラエルのように早くなりたいわけですよ。もう一息で、いっぱいワクチンが日本にやってくるのが分かっているから、せめてそこまでは我慢してくれ国民よ、と菅政権が言いたい気持ちは分かります。我慢しない人が多いけど。
バッハ会長来日までに、形だけでもウイルス拡大を抑え込みたい
そのような話であるので、今回3回目の緊急事態宣言と相成りました。報道でもさまざまある通り、5月中旬にIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が来日する日程が組まれているので、それまでの期間に、形だけでも何とかこの変異ウイルスの拡大を抑え込もうという政治的思惑があるのだと予想されています。
もちろん、政策の現場や公衆衛生をやっている人たちからすれば、いま目の前のコロナ感染者が急増して大阪では医療崩壊を起こしてしまっているので、オリンピックに関係なく緊急事態宣言を打つのは当然とも言えます。
ところが、実際に感染してから重症化するまでに2週間近くかかるといういままでの治療事例や、「全国で、1日100人以下の新規感染者数」という理想的なレベルまで抑え込みをするためには、どう考えても3週間を予定している今回の緊急事態宣言ではスケジュール的に無理だろうと見られています。「なんで5月中旬に緊急事態宣言を切り上げる必要があるの?」と言われれば、「まあ、バッハ会長が来てまうからやろなあ」とみんな思ってるわけです。
五輪が中止になったら、3,500億円が税金から支払われる?
そして、緊急事態宣言においては、不要不急の活動・事業に関しては、感染拡大を防ぐために見合わせるよう「お願い」が繰り広げられています。文化的活動や、友人知人や同僚と語らう飲食は不要不急の典型であるということで、真っ先にお上から「控えろや」と言われる運命にあります。
そういう不要不急と名指しされた飲食やエンタメは干上がることを意味する一方、国民の不要不急な活動を控えた結果、開催されるのが不要不急のラスボスのような東京オリンピックであることは論を俟ちません。不要不急を我慢した結果、凄い不要不急のイベントであるオリンピックが開催されてしまうという、進撃の巨人並みの理不尽なオチが待っているのは圧巻です。
国ぐるみで悪い冗談を繰り広げているようにも思うわけですが、今度は小池百合子さんに仕える若い都議の人が「オリンピックが仮に中止になったら、3,500億円の損失が税金から支払われる」と危機感を持ってツイートしてたりするんです。「都民ファースト」からいつの間に「オリンピック強行開催ファースト」に転向したんでしょうか。
この時期に、オリンピックを強行開催する意味がどこにあるのか
お前さあ……いままでどれだけのカネを使ってオリンピックの準備をしてきたんだよ。そればかりか、オリンピック開催の1年延期の原因にもなったコロナ対策で膨れ上がった国家予算、3次補正含めて175兆円を超えたんですよ。
令和2年度第3次補正予算及び令和3年度予算について(財務省) https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202102/202102c.html
「その金額に比べれば、オリンピック中止にともなう支出3,500億円とかいう見積もりなど、はした金だ」とまでは申しませんが、東京でのオリンピック開催のために看護師さんなど医療関係者を動員しなければならない話まで飛び出す流れを見ていると、どうしても「国民の健康よりも、オリンピックを優先している」ように見えてしまいます。
決して政府関係者も都道府県・自治体の皆さんもそういうつもりはないのかもしれませんが、オリンピック開催をしたいがために、国民の自由な行動を奪い、適切な感染症対策を後回しにしてまで、どうにか理屈にならない政策を次々と打ち出しては国民を困らせているようにすら感じるんです。
明らかに、適切なコロナ対策と並行して東京オリンピック開催を強行するという判断は、政府や都道府県・自治体の能力をはるかに超える仕事量を国家公務員や自治体職員、医療関係者の皆さんに強いているんじゃないかと思うのです。世界を見渡しても、コロナ対策だけでも国家の一大事として、死ぬ気で取り組んでなお感染拡大が止められずに、接種するコロナワクチンが行き渡って効いてくれることを最後の望みにしている国が多いわけですよ。
日本がどうしても国威高揚のために、この時期に、オリンピックを強行開催する意味がどこにあるのか、よく考えたほうがいいと思うんですよね。
IOCと東京都の契約書、これはいったい誰が見たんでしょうか
そして、スポンサーに対する違約金の支払いが3,500億円に上る、いまさらやめられない、という話が出回っていますけれども、そのIOCとホスト都市である東京都の間で交わされた契約書、これはいったい誰が見たんでしょうか。誰が、契約の中身を知っているの。情報開示請求で出てくるものなのでしょうか。
本当にそういう契約があるのであれば、慎みある社会人として書かれている違約金を(減額交渉するにしても)きちんと支払うのが日本の立場だとは思いますけれども、いままで五輪にかけてきた金額、五輪を開催する時期、五輪を取り巻く世界的なコロナの環境、どれをとってもオリンピックが開催できる条件ではないと思うんですけどね。
そういう辛い現実を忘れるために、酒を飲んで早く寝てしまうのが良いのではないかと思うのですが。
(山本 一郎)