「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん=当時(77)=に覚醒剤を摂取させて殺害したとして、殺人容疑などで逮捕された元妻、須藤早貴容疑者(25)が、野崎さんから離婚を突きつけられていたことが分かった。インターネットで覚醒剤や完全犯罪について調べ、密売人から入手していた疑いも浮上している。
須藤容疑者は2018年2月に野崎さんと結婚した後も東京都内のマンションに居住していた。野崎さんは須藤さんに離婚を突きつけ、離婚届も保管していたという。
須藤容疑者は事件前、覚醒剤や完全犯罪について調べていたといい、SNSで密売人と連絡を取り、田辺市内で密売人に接触し覚醒剤を入手した疑いがある。野崎さん宅の台所や掃除機からは覚醒剤が検出された。
和歌山県警は野崎さん宅の防犯カメラ映像を解析し、死亡時に家にいたのは野崎さんと須藤容疑者だけだったと特定した。捜査関係者によると事件当日、家政婦は夕食を用意した後に外出した様子が防犯カメラの映像に記録されており、その後、第三者の出入りがないことも確認した。
状況証拠はそろっているようにみえるが、須藤容疑者は任意の事情聴取に関与を否定している。
元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏は「覚醒剤と死因との関係が密接で、携帯電話の分析や注文のやり取りを再現するなどして須藤容疑者が覚醒剤を入手した証拠をつかんでいる可能性もある。逆にもし証拠が弱く、逃亡を防ぐためだけの逮捕ならば、旧来型の悪しき自白偏重の捜査だと批判を浴びるリスクもあるだろう」と語る。
若狭氏は「1998年の毒物カレー事件では容疑者の自白がなかったが、状況的にヒ素を入れたとみて逮捕し、死刑判決に至った。同じ和歌山県警なので、この事件のことは当然念頭にあるだろう」と指摘した。