緊急事態宣言の前日に成人式挙行 市に苦情も「苦渋の決断」

新成人の門出を祝う成人式。「成人の日」がある1月は新型コロナウイルスの感染が広がっていたため、5月の大型連休中に延期していた自治体も少なくないが、3回目の緊急事態宣言で再延期を余儀なくされるケースが相次ぐ。こうしたなかで宣言前日に挙行した自治体がある。担当者が「苦渋の決断」と漏らした式の現場を訪れた。
「カラオケ行かないで」と呼び掛け
「コロナ追跡アプリをダウンロードしてください」。4都府県に緊急事態宣言が発令される前日の4月24日。宣言対象地域の大阪府箕面市で成人式が開かれた。会場の市立市民会館では、係員が感染対策の徹底を呼び掛け、式典後に会食やカラオケに行かないよう促す注意書きも張られた。
箕面市では当初、1月に式をやるはずだった。新型コロナの感染拡大により4月と8月に分散して延期し、このうち4月分をこの日に開いたのだが、市には「こんな時期に行うのは不適切ではないか」との苦情も寄せられたという。担当者は「式のために帰省してくる人もいる。苦渋の決断だった」と振り返る。約700人の出席を見込んでいたものの、実際は3分の1程度の約250人にとどまった。
参加した男性会社員(20)は「微妙な時期なのは分かるけど、短大の卒業旅行も行けなかった。政治家や公務員は飲み会をしているのに、私たちだけ駄目というのは納得がいかない」と話した。
大阪市はUSJ成人式を再延期
一方、緊急事態宣言発令により再延期する動きが広がっている。1月に各区の区民ホールなどで予定していた式を延期し、5月中旬~下旬にテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」で開く方針だった大阪市。約2万5000人の新成人を無料招待するはずだったが、再び延ばすことにした。
同市浪速区の大学2年、船留(ふなとめ)祐希さん(20)は「小学校の同級生たちと再会できるのを楽しみにしていたのに、また延期になって残念。今の状況では仕方がないけど」とつぶやく。振り袖のレンタルも昨夏から予約しており、「コロナ禍が収束して無事に開かれることを祈りたい」と期待を込めた。松井一郎市長は「次は必ず開催できる時期を目指したい」と日程を調整中で、3度目の延期はないとしている。
宣言が発令中の神戸市も再延期した。当初は1月11日に開くつもりだったが、開催3日前に延期を発表した。新成人らの意見を聞き、帰省のしやすさなどから大型連休中の5月3日を新しい日取りに決定。ノエビアスタジアム神戸(同市兵庫区)で2部制の式を開くことにしていたが、またもや延期となった。今後、秋以降の開催を目指している。
「東京からの帰省はリスク大きい」と中止
宣言対象外の地域にも影響が出ている。和歌山県では5月に成人式を実施予定だった7市町がいずれも中止や再延期を決めた。このうち白浜町は、当初の1月4日からずらした5月9日の式について、町内のレジャー施設「アドベンチャーワールド」で特別開催する予定だった。しかし、近隣府県などの感染拡大や医療体制の逼迫(ひっぱく)状況から「新成人や家族の健康と安全を最優先にする」と判断し、再延期した。開催日時や場所は未定としている。
鹿児島県の離島の徳之島では、徳之島町、天城町、伊仙町の島内3町がそろって、1月から5月2日に延期した成人式の中止を決めた。徳之島町の担当者は「新成人の9割以上が島外に出ている。東京や大阪が多く、帰省による感染拡大のリスクが大きいと判断した」と説明した。
業者も対応に追われている。全国で振り袖のレンタルや写真撮影をしている「スタジオアリス」(本社・大阪市)は当面、新成人に貸し出している振り袖のレンタルを無料で延長する。担当者は「コロナ禍で振り回される新成人には、追加料金などの心配なく楽しんでほしい」と話している。【隈元悠太、園部仁史、山本真也、竹内之浩】