司書になる夢、交通事故で奪われた「全盲女性」 賠償金の「格差」とたたかう訴訟の意味

図書館の司書になる夢を抱いていた高校生の女の子。ある日、登校中に横断歩道で自動車にひかれる大事故に遭う。女の子は重体に陥り、入退院を繰り返した。しかし、重い障害が残り、将来の夢も絶たれてしまった。 事故から10年。女の子は成人し、両親とともに、運転していた男性を相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こす。争点は、女性が将来働いて得られたはずの収入を算定する「逸失利益」がどこまで認められるか。 しかし、裁判所の下した判決は厳しいものになった。女性の「逸失利益」を全労働者の平均賃金の7割しか認めなかった。女性が生まれつき目が見えない障害者であり、健常者と障害者の間には就労格差や賃金格差があることが、その理由だ。 現在、女性と両親は控訴し、高裁で争いは続いている。その代理人である大胡田誠弁護士は、「今ある社会の格差を、逸失利益に反映させることは、障害者に対する差別の再生産につながります」と厳しく批判する。 障害者の「逸失利益」はどう判断すべきなのだろうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香) ●重い障害が残った事故 裁判に訴えたのは、山口県下関市の新納茜さん(30歳)と両親。体重900gに満たない早産で、何度も手術をしたが、未熟児網膜症によって失明した。 両親は茜さんの将来を考え、小学生のころから掃除、洗濯、買い物、登校など、身の回りのことは一人でできるように厳しくしつけてきたという。茜さんはすくすく育ち、本が大好きで、詩を書いたり、柔道にチャレンジしたりと、活発な子だった。 将来の夢は、図書館の司書になること。進学に向けて大学のオープンキャンパスにも出かけるなど、夢の実現に向けた進路も定めた矢先、交通事故に遭遇した。2008年5月、当時17歳だった茜さんは登校中、安全を確認しないまま横断歩道に侵入してきた自動車にはねられ、意識不明の重体に陥った。 右急性硬膜下血腫、脳挫傷、両肺挫傷、頭蓋顔骨多重骨折…ほかにも全身に大けがを負った茜さんは、生死をさまよった。一命はとりとめたものの、その後も治療を重ね、懸命なリハビリもおこなったが、高次脳機能障害、認知や記憶、歩行など多くの障害が残った。 「茜さんはそれまで、健常の人と同じ速度で読み書きもできていたのに、事故で左手に麻痺が残り、点字を読んだり、パソコンを使ったりすることが難しくなりました。中でも、大変なのはてんかんの発作が出るようになったことです」と大胡田弁護士は説明する。
図書館の司書になる夢を抱いていた高校生の女の子。ある日、登校中に横断歩道で自動車にひかれる大事故に遭う。女の子は重体に陥り、入退院を繰り返した。しかし、重い障害が残り、将来の夢も絶たれてしまった。
事故から10年。女の子は成人し、両親とともに、運転していた男性を相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こす。争点は、女性が将来働いて得られたはずの収入を算定する「逸失利益」がどこまで認められるか。
しかし、裁判所の下した判決は厳しいものになった。女性の「逸失利益」を全労働者の平均賃金の7割しか認めなかった。女性が生まれつき目が見えない障害者であり、健常者と障害者の間には就労格差や賃金格差があることが、その理由だ。
現在、女性と両親は控訴し、高裁で争いは続いている。その代理人である大胡田誠弁護士は、「今ある社会の格差を、逸失利益に反映させることは、障害者に対する差別の再生産につながります」と厳しく批判する。
障害者の「逸失利益」はどう判断すべきなのだろうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
裁判に訴えたのは、山口県下関市の新納茜さん(30歳)と両親。体重900gに満たない早産で、何度も手術をしたが、未熟児網膜症によって失明した。
両親は茜さんの将来を考え、小学生のころから掃除、洗濯、買い物、登校など、身の回りのことは一人でできるように厳しくしつけてきたという。茜さんはすくすく育ち、本が大好きで、詩を書いたり、柔道にチャレンジしたりと、活発な子だった。
将来の夢は、図書館の司書になること。進学に向けて大学のオープンキャンパスにも出かけるなど、夢の実現に向けた進路も定めた矢先、交通事故に遭遇した。2008年5月、当時17歳だった茜さんは登校中、安全を確認しないまま横断歩道に侵入してきた自動車にはねられ、意識不明の重体に陥った。
右急性硬膜下血腫、脳挫傷、両肺挫傷、頭蓋顔骨多重骨折…ほかにも全身に大けがを負った茜さんは、生死をさまよった。一命はとりとめたものの、その後も治療を重ね、懸命なリハビリもおこなったが、高次脳機能障害、認知や記憶、歩行など多くの障害が残った。
「茜さんはそれまで、健常の人と同じ速度で読み書きもできていたのに、事故で左手に麻痺が残り、点字を読んだり、パソコンを使ったりすることが難しくなりました。中でも、大変なのはてんかんの発作が出るようになったことです」と大胡田弁護士は説明する。