日米vs中国の対立激化で緊迫化する尖閣問題。地元漁師も不安の声

「尖閣諸島に領土問題は存在しない」――。日本政府は約50年間、このスタンスを貫き続けているが、尖閣周辺海域の環境は今年2月に施行された中国の海警法の影響で激変。現場の海人(漁師)は、この事態をどう見ているのか。現地で話を聞いた。

◆海人が最も恐れるのは石垣島周辺の漁場の減少

荒波のなか、海上保安庁の巡視艇に並走される一艘の漁船。その後方には「中国海警」と書かれた船舶が、ぴったりと追尾してくる――。

2月15日、石垣市議の仲間均氏が漁船から撮影した映像の一コマだ。撮影地は尖閣諸島の魚釣島から6マイル(約10㎞)南の海上。まぎれもなく日本の領海での出来事である。この追跡は翌日まで続き、海警局の船舶は23時間にわたって日本の領海内にとどまったという。

今回、私財を投じて購入した漁船で尖閣諸島周辺海域まで航行した仲間均氏は、過去16回にわたって尖閣諸島に上陸するなど、20年以上にわたって問題に取り組んできた人物だ。そんな仲間氏は自らの活動についてこう話す。

「まず、私は石垣市の議員としてこの現状を国民に訴えるためにやっています。私の名前を語ってカネ集めをしている団体もいるが、私はどんな組織にも所属していない。もちろん漁船登録をして、水産庁の許可も得ている。

石垣周辺近海は近年、あまり魚が獲れないんですが、尖閣は高級魚のアカマチをはじめ魚種も豊富。普段は潮の流れが激しくて、餌が深いところまで下りていかないのですが、4月くらいまでの時期は潮止まりがあって餌が落ちるので、格好の漁場になります。

ただ、今回もそうでしたが、操業していると機関砲を搭載した中国公船が現れ、我々の船から40mくらいまで接近し、ジェットエンジンをふかし、魚を追い払ってしまう。これでは漁なんてできたもんじゃない。こうした状況を改善し、八重山の漁師が安心して尖閣で操業できるようにすることが、私の市議としての使命だと思っている」

◆2月1日の「中国海警法」施行

そんな仲間市議に立ちはだかった中国公船は、このところ尖閣諸島周辺での活動を活発化させている。海上保安庁によると、2月1日からの1か月間で、尖閣諸島周辺の領海外側の接続水域で中国公船の航行が確認されたのは計26日。さらに領海侵入が確認されたのは計6日で、そのうち計5日は日本漁船を追尾している。

そのきっかけとなったのが、2月1日の「中国海警法」の施行だ。中国の武装警察傘下の沿岸警備機関「海警局」が、中国の主権や管轄権を侵害している軍艦、公船、民間船などの外国船に対し、搭載している機関砲などの武器使用を含めて、あらゆる措置を講じることを認めるものだ。

日本政府は海警法への対応措置として、外国公船・軍艦が日本に上陸する目的で領海に侵入した場合に限り、海上保安官による「危害射撃」が可能との新たな見解を示した。だが、中国が勝手に主張する“領海”に日本の船が立ち入れば、たとえ民間の漁船でも武器使用が認められる海警法とは雲泥の差がある。

◆石垣島の漁民からは不安の声

この法律が、国際法上における中国の領海でのみ適応されるのならばまだいいだろう。しかし中国の領海法では、沖縄県の尖閣諸島も中国の領土と一方的に宣言されており、その周辺12海里(約22㎞)の海域も中国の領海と主張している。

つまり、尖閣周辺海域で操業する漁船や領海警備を行う海上保安庁の巡視船も、海警局による攻撃を受ける危険性があるのだ。

海警法の施行に、石垣島の漁民からは不安の声が上がっている。八重山漁業協同組合の伊良部幸吉代表理事専務はこう話す。

「石垣島には約330人の漁業従事者がいますが、海警法が施行されて射撃されるんじゃないかと心配する漁業者は多いですね。もう、尖閣には近寄りたくないと思っている人がほとんどではないでしょうか。

フィリピンの南沙諸島では、約220隻の中国漁船が集結したとニュースで見ましたが、中国をこれ以上刺激すれば尖閣周辺でも同様のことが起きかねない。そうなるとさらに厄介ですからね。

幸い、島の南方海域に尖閣より近くていい漁場があるので、ほとんどの漁師はそこで操業しています」

石垣島での漁業歴が長い漁師の高橋さんは、「尖閣にはおそらく一生行かないだろう」と話す。

◆漁民にとって一番の問題は日中漁業協定

「この問題はお互いに干渉することなく、曖昧な状態を続けるのが一番じゃないですか。あの海域は、私たちからしたらすでに中国が支配しているようなもの。それを奪い返すってことは、戦争になっちゃうってこと。そうなったら被害を受けるのは、まず僕ら漁師です。そのことをよく考えてくれっていう話なんですよ。よそから来た活動家が中国を挑発するようなことをやってるけど、はっきり言って迷惑。

それよりも日中漁業協定を何とかしてほしい。この協定で、尖閣諸島よりも南側にある日本の北緯27度以南のEEZ(排他的経済水域)では、中国漁船は操業していいことになっている。現在は中国漁船がそれほど来てないけど、もし操業しだしたら魚の取り合いになる。サンマだって中国が獲り始めて、日本ではめっきり不漁になりましたから」

漁民が尖閣から遠ざかっているのはリスク以外にも理由はあるようだ。前出の伊良部氏が話す。

「まず、尖閣に行こうとすると海上保安庁の臨検を受けなければならないのですが、これが結構メンドくさい。さらに、船の燃料が高騰化している今、石垣から170㎞ほど離れた尖閣諸島まで行くのはコストが大きすぎるという面もあります。

加えて、今はコロナ禍のせいで魚価が安い。現地で何日も泊まって、よほどの量を持ち帰らなければ採算が合わないんです。ただ、逆を言えば、燃料代が下がって魚価が上がれば、尖閣に行きたいという漁師もいると思います。

実際、いい漁場であることは間違いない。10年ちょっと前、まだ平和だった頃に資源情報の確認ということで尖閣に行ったことがありますが、そのときは大漁でした。産卵のタイミングだったので、浅瀬にたくさん魚が集まっていて、大きなアカジンミーバイ(スジアラ)がいっぱい。氷が足りないくらいの漁獲量でした」

◆尖閣諸島周辺は豊かな漁場

尖閣諸島周辺が豊かな漁場であることは、確かであるようだ。再び前出の仲間氏。

「私の夢は尖閣で獲れた魚を豊洲に卸すことです。国民の皆さんが尖閣の魚を食べるようになってくれれば、尖閣問題への関心も高まるし、魚がブランド化されて単価が上がり、尖閣に行く漁師も増える。そうなれば、尖閣問題は解決に近づくと確信しています」

果たして、尖閣諸島周辺の漁場が八重山の漁民のもとに返るのはいつのことになるのだろうか……。

◆中国政府が最も恐れるのは「尖閣上陸」

海警法の施行で、尖閣周辺海域での活動を活発化させる中国公船に対し、日本側は現状、手をこまねいているのみ。だが、そこには日本政府のジレンマがあるようだ。中国事情に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏は話す。

「領有権問題には対話が不可欠だが、日本政府は尖閣諸島について『領土問題は存在しない』というスタンスなので真正面から話し合うことができません。一方で、領土問題として認めてしまうと、これまで『固有の領土』と定義してきた優位性を失ってしまうのです」

では、どうすれば衝突は回避できるのだろうか。

「尖閣諸島という名称は出さず、東シナ海全体の問題として取り扱いながら、不測の事態の発生を回避していく方法で時間を稼ぐしかない。中国が最も警戒しているのは、日本に尖閣上陸を許してしまうこと。そうなると、さらなる強固な手段に出なければ国内世論に弱腰批判されてしまうから。これは中国側も望んでいないのです」

小泉進次郎環境相は、人工衛星を用いて尖閣諸島での自然環境調査を行っているが、政府は上陸調査をまだ認めていない。しかし、環境保全の名目ならば国際社会の理解を得られやすい。この一手が、尖閣の明るい未来を切り開くか。

【石垣市議会議員・仲間 均氏】
「尖閣諸島を守る会」代表世話人。尖閣への上陸回数は16回に及び、地元、石垣市の漁民の権利や八重山諸島全体の価値向上を目指す

【拓殖大学海外事情研究所教授・富坂 聰氏】
北京大学中文系に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書は『「米中対立」のはざまで沈む日本の国難』など多数

<取材・文・撮影/SPA!沖縄取材班 写真提供/仲間均氏 画像/PIXTA>