岩手県の盛岡市動物公園「ZOOMO(ズーモ)」が3月、感染症を患ったとみられるカイウサギ全15匹を安楽死させたと発表した。ズーモは安楽死について「アニマルウェルフェア(動物福祉)」に基づく新たな運営方針に沿ったと説明する。一方、ストレスに弱いウサギを来園者と触れあわせたため、弱ったのではないかとの指摘もある。アニマルウェルフェアの実現は一筋縄では行かないようだ。(広瀬航太郎)
ズーモによると、2019年5月からカイウサギ数匹にくしゃみや鼻水などの症状がみられるようになり、昨年11月中旬に再発。「パスツレラ症」の感染を疑い、抗生剤を注射して獣舎の消毒などを行った。飼育員らは獣舎に入る際に長靴を消毒液につけたほか、園は異なる動物を担当する飼育員同士を極力接触させないなどの対策を取った。
だが、パスツレラ症は無症状の個体が菌を保有している場合があり、群れの中で発症すると根絶が難しく、ほかの個体にも症状が広がった。ズーモはアニマルウェルフェアの運営指針を踏まえて「これ以上苦しませてはならない」などと判断し、昨年12月中旬に安楽死に踏み切った。
ズーモがこの事実を3月23日にホームページなどで公表すると、「重症化していないものは救えただろう」「最善を尽くしてのつらい判断だったと思う」など、同月末までに270件以上の意見や問い合わせがメールやツイッターで寄せられた。
隔離したケージで1匹ずつ飼育する方法も検討したが、スペースが足りず、「飼育場所を移すと感染を広げる恐れがある」「QOL(生活の質)が低下し、カイウサギにとって苦痛となる」などの理由から安楽死を選択した。辻本恒徳園長は「今後、園内の動物病院に予備の部屋を設けることも検討する」と話す。
岩手大農学部付属動物病院の山崎
真大
( まさひろ ) 病院長によると、パスツレラ症はウサギ以外に犬や猫、人間にも空気感染するが、ウサギの場合、重症化すると肺炎や脳脊髄炎を引き起こすことがある。山崎病院長は「ほかの動物に感染を広げないよう予防的措置として安楽死を行うことは、動物園に関わる獣医の間では常識だ」と指摘する。
一方、一般社団法人「アニマル・リテラシー総研」(東京都)の山崎恵子代表理事は「園の運営・決断には一定の理解を示す」としつつ、「ウサギがあらゆる場面でぬいぐるみのように扱われている現状は是正する必要がある」と話す。
同法人によると、ウサギはストレスに敏感な動物で、一般的に17~25度の室温で快適に過ごすことができるとされる。
ズーモでは昨年10月まで、子供動物園でウサギと来園者が触れあえるコーナーを設けていた。飼育員らは「嫌がるウサギを無理やり抱っこしない」など、アニマルウェルフェアの概念に沿った方法を指導してきたが、山崎代表理事は「ウサギにとって来園者との触れあいがストレスとなり、感染症に
脆弱
( ぜいじゃく ) になっていた可能性もある」と指摘する。
ズーモは現在、リニューアル工事で休園中。再開後に予定していたウサギと来園客の触れあいは、感染症予防の観点から中止する方針だ。
日本動物園水族館協会によると、パスツレラ症に関する動物の安楽死は、同協会が把握する限り、今回が初めてだという。同協会の成島悦雄専務理事は「欧米に比べ、日本では『安楽死』や『QOL』に対する理解が浸透していない。議論を深めるため、今は意見を戦わせる段階だと思う」と話した。
◆アニマルウェルフェア=家畜などの動物に与える肉体的・精神的苦痛を最小限に抑え、動物が幸福で健康に生活できるよう配慮する考え方。2013年の改正動物愛護法施行に伴い、動物が命を終えるまで適切に飼育する「終生飼養」の徹底が明文化され、注目を集めるようになった。ズーモでは展示動物の安楽死を判断する基準として、QOL(生活の質)が低下したままであることや、症状の進行により苦痛を伴うことなどを挙げている。