新型コロナウイルスの軽症者や無症状者を受け入れる大阪府内の宿泊療養施設では、容体が悪化する患者が相次いでいる。すぐに搬送先の病院が見つからず不安を訴える患者と、懸命に支える看護師。病床が
逼迫
( ひっぱく ) するなか、危機的な状況となっている大阪市内のあるホテルを取材した。(長尾尚実)
26日午前、大阪市内のホテル1階ロビー。安全区域の「グリーンゾーン」と、患者が行き来する「レッドゾーン」の間には壁が設置されて隔てられている。防護服を着た看護師2人がタブレット端末を手にレッドゾーンに入った。容体が悪い患者に医師のオンライン診察を受けてもらうためだ。
宿泊療養施設は新型コロナ患者の急増を受け、医療機関の機能を維持するため、軽症者や無症状者を受け入れる。府内の施設は27日時点で、13か所(計3475室)が稼働中で、1794人が入っている。
取材したホテルではこの日、看護師4人が155人の患者の対応に当たった。患者一人ひとりに毎日、電話で体調を尋ね、医師のオンライン診療などでは防護服を着て部屋に出向く。
看護師が、ある高齢女性の指先に機器を装着し、血液中の酸素濃度を確認した。呼吸不全が起きるレベルとされる「93%」を大きく下回る「88%」だった。
看護師がタブレット端末の画面を通して伝えると、医師は「すぐ救急車を!」。ホテルに詰める府職員が救急搬送を要請する。だが、近隣では病床の空きがない。「いいから救急車を呼んで。とにかく酸素を吸わせないと」と医師の指示が飛び、防護服の看護師が窓ガラスをたたきながら叫ぶのが聞こえた。「救急車はあとどのくらいで来ますか」
10分後、救急車が到着した。看護師とともに青白い顔をした高齢女性が車椅子に乗せられ、ホテルの外に出てきた。すぐに救急車の中で酸素投与を受ける。ゴーグルとマスクを着けた救急隊員は「まだ搬送先は決まっていません」と話した。
府が確保した病床は逼迫し、命の危機が迫るほど悪化しても、入院先がすぐに見つからないのが実情だ。
看護師の一人、芝野
光紗
( みさ ) さん(32)によると、発熱したり呼吸状態が悪くなったりした患者からは電話で、「これからどうなるの」「このまま死ぬのか」という不安の声をよく聞く。「息が苦しくなったらすぐに言って」と励ますが、十分な治療が与えられないあまり、「何もしてもらえない」と取り乱す人もいる。
芝野さんは「自分も感染するかもしれないという緊張感が続いており、防護服を着ている時間も増えた。『第4波』では重症化のスピードが速く、変異ウイルスの恐ろしさを感じている」と厳しい表情で語った。