大津市で2019年、右折車と直進車の衝突に巻き込まれ、散歩中の保育園児ら16人が死傷した事故で、遺族らは7日、直進車を運転していた女性(64)を不起訴とした大津地検の処分を不服として、大津検察審査会に審査を申し立てた。右折車の女性(54)は20年に実刑判決が確定。遺族らは直進車についても、「安全を確認し、減速するなどの注意義務を怠った」と主張している。
事故は8日で発生から2年。審査会が「不起訴不当」や「起訴相当」と議決すれば、検察官は再捜査して処分を改めて判断する。
19年5月8日朝、大津市の交差点を右折した乗用車が、対向車線を直進してきた軽乗用車と衝突。歩道で信号待ちをしていた園児らの列に直進車が突っ込み、園児2人が死亡、保育士と園児計14人が重軽傷を負った。現場は園児の散歩コースだった。
直進車の女性は自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の疑いで書類送検されたが、大津地検は19年6月、「過失は認めがたい」として不起訴に。事故の主原因は右折車にあり、直進車は法定速度(60キロ)以下で走行して前方不注視などもなかったと判断した。
申立書は、直進車の女性が交差点の100メートル以上手前で、少なくとも2台の車が連続で右折するのを認識していたと指摘。さらに衝突した車両も右折しようとしたのに、女性は進路を譲ってもらえると思い込み、減速せず約56キロで交差点に進入しており、「事故を未然に防ぐ注意義務を怠った過失があり、不起訴処分は不当だ」と主張している。
この日、亡くなった男児(当時2歳)の保護者は「ブレーキも踏まず息子たちに痛い思いをさせた以上、罪がない人にはできません。たった2歳で死んだ息子のために、私たち残された家族がしてあげられるのは、それぐらいしかありません」とのコメントを公表。代理人の石川賢治弁護士は「直進車が優先される場面でも、危険がないか確認する注意義務が免除されるわけではない。安易な思い込みによる運転に警鐘を鳴らしたい」と話した。
右折車を運転していた女性は同法違反(過失致死傷)などの罪に問われ、大津地裁が20年2月、禁錮4年6月の実刑を言い渡した。女性は同年4月に控訴を取り下げ、判決が確定した。
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事故から2年となるのを前に、滋賀県警幹部が7日、追悼のために現場を訪れて献花した。大津署員らは「子ども守ろう!」と書かれたプレートを持ち、ドライバーに安全運転を呼び掛けた。【菅健吾、諸隈美紗稀、礒野健一】
「プップ、ドンするよ」記憶鮮明に
重傷を負った女児(5)には今も、事故の記憶が鮮明に残る。両親が当時の様子を尋ねると「めっちゃ痛かった」。駐車場などで手をつながないと「プップ(車)、ドンするよ」と不安を口にすることがあるという。
事故で左脚などを骨折し、入院は約2カ月半に及んだ。今は半年に1回程度の通院で日常生活に大きな支障はない。ただ、冬になると痛みを訴えてうずくまることもあり、心配は尽きない。
園児の散歩中に起きた事故は、歩行者安全対策の遅れを浮き彫りにした。京都府亀岡市では2012年、登校中の小学生らの列に軽乗用車が突っ込み、3人が死亡、7人が重軽傷を負った。文部科学省は全国の通学路を緊急点検したが、保育園や幼稚園の散歩コースは対象外だった。
国土交通省によると、大津の事故後、ガードレールがないなど危険な場所が約2万8000カ所で見つかった。21年度中に9割で対策工事が終わる見込みだ。全国の警察も約7400カ所で安全対策を進め、20年10月末までに約6200カ所で完了した。
しかし、両親は「どれだけハード面が強化されても、無責任で危険なドライバーは依然として多い」と訴える。ひしゃげたガードレール、路上に散らばった車のパーツ……。街中で事故の痕跡を目にするたび、「あの事故は世の中にとって何の意味があったのだろうか」とやるせなさが募る。
事故から間もなく2年。直進車の運転手が不起訴となったことに納得できず、検察審査会への審査申し立てに加わった。「右折車が止まるだろうと思った」と過信し、減速しなかった運転手の姿勢に疑問を感じたからだ。「車は使い方を間違えれば凶器と同じ。一瞬の出来事で二つの尊い命が失われ、多くの人が傷ついた。ハンドルを握る手が誰かを傷つけ、悲しませる手であってほしくない」。両親の心からの願いだ。【菅健吾】