5月末まで延長された緊急事態宣言は、歓楽街の様相を変えている。新宿・歌舞伎町は「不夜城」の街灯が減る半睡状態だ。それでも若い男女を中心に一定の人出はあり、路上で男性客を誘う「街娼」も散見される。彼女たちを支援する、ある夜回り員と一帯を歩き、日本一の歓楽街に立つ女性たちが抱える問題を探った。(ジャーナリスト・富岡悠希) ●「来月の生活はどうなるかわからない」 5月上旬の平日午後8時15分ごろ、坂本新さん(49)は歌舞伎町交番(歌舞伎町2丁目)に入り、自身の安全対策として、夜回りに向かう旨の挨拶をした。 出てきた直後、向こうから歩いてきた中年女性が右手を上げて、すっと近づいてきた。 「おっ、どうした?」 旧知の坂本さんが声をかける。白いマスク姿の女性は相談事があるようだった。人目に付きにくい暗がりに移動した2人は数分間、立ち話をした。黒いマスク姿の坂本さんが女性に対し、相づちを打つのが見えた。 その立ち話が終わった後、女性が取材に応じた。40代のマミさん(仮名)が明かしたのは、新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言による窮状だった。 彼女は「街娼」「立ちんぼ」などと呼ばれる「直引(じかび)き売春」を仕事にしている。日が沈むころから出没し、声を掛けてきた男性たちとホテルに向かい、対価をもらう。もちろん売春防止法で禁止されている違法行為だ。 マミさんは、以前は昼間に働いていたが、体調を崩して離職。不仲の親に頼ることはできず、数カ月前から、やむなくこのエリアに来ることになった。 しかし、コロナの感染者が増えるたび、歌舞伎町に来る男性の数は減っていく。特に彼女の相手となる中年以上の男性は、若い男性と比較するとコロナリスクに慎重な傾向がある。 そのため、ここの仕事でも十分に稼ぐことはできず、当初から貯金はできていない。さらに、緊急事態宣言の延長が追い打ちをかけた。一人暮らしを維持する生活費に困るようになった。 「来月、6月の生活はどうなるかわかりません。かなり苦しい」 言葉少なに、こうつぶやいた。 ●繋がれない女性たちを支援しはじめたきっかけ そんなマミさんが「親身になって話を聞いてくれる」とした相手が坂本さんだ。生活保護の受給を検討しており、相談を始めた。この日のような対面のほか、日常的にLINEも送っている。 坂本さんは、マミさんのような女性たちを支援するNPO法人「レスキュー・ハブ」代表だ。一見すると、ひげ面のいかつい「オジサン」。風俗店のガードマンのようでもあるのは、元々、その道のプロだからだ。
5月末まで延長された緊急事態宣言は、歓楽街の様相を変えている。新宿・歌舞伎町は「不夜城」の街灯が減る半睡状態だ。それでも若い男女を中心に一定の人出はあり、路上で男性客を誘う「街娼」も散見される。彼女たちを支援する、ある夜回り員と一帯を歩き、日本一の歓楽街に立つ女性たちが抱える問題を探った。(ジャーナリスト・富岡悠希)
5月上旬の平日午後8時15分ごろ、坂本新さん(49)は歌舞伎町交番(歌舞伎町2丁目)に入り、自身の安全対策として、夜回りに向かう旨の挨拶をした。
出てきた直後、向こうから歩いてきた中年女性が右手を上げて、すっと近づいてきた。
「おっ、どうした?」
旧知の坂本さんが声をかける。白いマスク姿の女性は相談事があるようだった。人目に付きにくい暗がりに移動した2人は数分間、立ち話をした。黒いマスク姿の坂本さんが女性に対し、相づちを打つのが見えた。
その立ち話が終わった後、女性が取材に応じた。40代のマミさん(仮名)が明かしたのは、新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言による窮状だった。
彼女は「街娼」「立ちんぼ」などと呼ばれる「直引(じかび)き売春」を仕事にしている。日が沈むころから出没し、声を掛けてきた男性たちとホテルに向かい、対価をもらう。もちろん売春防止法で禁止されている違法行為だ。
マミさんは、以前は昼間に働いていたが、体調を崩して離職。不仲の親に頼ることはできず、数カ月前から、やむなくこのエリアに来ることになった。
しかし、コロナの感染者が増えるたび、歌舞伎町に来る男性の数は減っていく。特に彼女の相手となる中年以上の男性は、若い男性と比較するとコロナリスクに慎重な傾向がある。
そのため、ここの仕事でも十分に稼ぐことはできず、当初から貯金はできていない。さらに、緊急事態宣言の延長が追い打ちをかけた。一人暮らしを維持する生活費に困るようになった。
「来月、6月の生活はどうなるかわかりません。かなり苦しい」
言葉少なに、こうつぶやいた。
そんなマミさんが「親身になって話を聞いてくれる」とした相手が坂本さんだ。生活保護の受給を検討しており、相談を始めた。この日のような対面のほか、日常的にLINEも送っている。
坂本さんは、マミさんのような女性たちを支援するNPO法人「レスキュー・ハブ」代表だ。一見すると、ひげ面のいかつい「オジサン」。風俗店のガードマンのようでもあるのは、元々、その道のプロだからだ。