国産ワクチン実用化へ瀬戸際…年内の供給出来なければ「マーケットに入る余裕なくなる」

新型コロナウイルスワクチンの大規模接種会場が24日に東京と大阪に開設され、21日に承認された米・モデルナ製ワクチンが使用される。米・ファイザー製をはじめ海外ワクチンの接種が進む一方、国産ワクチンの開発状況について東大医科学研究所・石井健教授(ワクチン科学分野)は「年内の供給は厳しいのが現状だが、それが出来ないと将来的にこのマーケットに入る余裕がなくなってきてしまう。今が瀬戸際だ」と実用化へ“正念場”を迎えているとの見方を示す。(奥津 友希乃)
米英露など6か国がワクチン開発に成功する中“後発組”の国産ワクチン開発を進める意義は何か―。
石井氏は2016年、それまで実用化例がない新技術メッセンジャーRNA(mRNA)を用いて、コロナウイルスの一種であるMERS(中東呼吸器症候群)ワクチン開発に着手したが、ヒトへの臨床試験を目前にした18年に、国から継続的な予算が得られず打ち切りに。その約2年後、新型コロナが流行しファイザー社が世界初の「mRNAワクチン」開発成功に至った。
石井氏は「(予算次第では)もう少し早い段階で国産ワクチンが開発されていた可能性は十分あった」と歯がゆさもあるだけに「また未知の感染症が流行した時に、国の責任で国を守るため安定的にワクチンの生産や供給が出来る体制は残しておいた方が良い」と開発の必要性を訴える。
日本では現在、4社が臨床試験に入っており、臨床前ながらも変異株に対応したものや、注射針を使わず投与するタイプなど各社が多種多様なワクチン開発に乗り出している。最も試験が進んでいるのが、アンジェス社と大阪大が共同開発中のワクチンだが、年内開始予定としている最終段階の大規模治験(第3相試験)が高い壁となっている。
通常、第3相では対象者数万人を試験中ワクチンと生理食塩水などのプラセボ(偽薬)を打つ組に分ける。第一三共と連携し開発に取り組む石井氏は、大規模治験が難しい理由を「既に承認された有効なワクチンがある状況下でプラセボを投与することに倫理的な問題が生じる」と指摘。さらに、海外ワクチンの普及により治験対象者となる未接種者不足も課題となっている。
政府は実用化の前倒しを図るため、4月から石井氏を含めた専門家と大規模治験の“代替策”協議を本格化。ファイザー製と中和抗体価(ウイルス感染を阻む抗体の強さ)を比較し、試験中ワクチンにも免疫効果があることを示す新指標の設定などが提案されている。
これまでワクチンに対する適用例はないものの、第3相前に承認し実用しながら安全性や有効性を確認する「条件付き早期承認制度」適用なども検討。政府は6月にも代替策をテコ入れしたい考えで、石井氏は「従来のやり方を踏襲するのではなく、工夫を凝らし安全性を見る方法を導入してほしい」と臨床試験の“ニューノーマル”に期待を込めた。