日刊ゲンダイコラムで暴力団を冷徹な目で斬る溝口敦氏。時に過激な表現もあり、「大丈夫か」と心配になる。しかし、この本を読めば、そうした懸念は氷解するのではないか。溝口さんの新著、「喰うか喰われるか 私の山口組体験」(講談社)である。
ここには溝口さんの山口組取材50年の生々しい記録と、その間の山口組の興亡が描かれている。登場する組長は何十人にも及ぶ。竹中組の竹中武(四代目山口組組長竹中正久の弟)、山健組の渡辺芳則(五代目山口組組長)、宅見勝(山口組若頭)、中野会の中野太郎、司興業の司忍(六代目山口組組長)、弘道会の高山清司、後藤組の後藤忠政……。みんな直接取材した相手だ。ただし、彼らと溝口さんの間には取材の垣根があった。
「カネをもらったこともないし、あげたこともない。飲食はともにしてもゴルフや麻雀はやらない」
結果、時に書いたものがトラブルになる。出版差し止め、訂正要求は何度も。溝口さん自身が1990年に背中を刺され、息子さんも2006年に尻を刺された。それでもひるまない。そんな猛者だから、山口組からも溝口さんは一目置かれているのが想像できる。
「なぜ、山口組の取材をしてきたかというと、人間くさくて面白いんですよ。人間の業が濃縮されているんですね。欲望、怒り、嫉妬。サラリーマン社会だって、あいつぶっ殺してやりたいということはあるけど、彼らは本当に殺してしまう。やられたらやり返す。ある意味、分かりやすく、泥くさい。ドラマがあるんですね」
溝口さんは本書のあとがきで、「私自身が山口組やヤクザを好きだったのかもしれない」と書いている。親子で刺されているのに、ある種のシンパシー?
「神戸山口組の若頭補佐から“溝口さんには男を感じる”と言われたことはあります。目先の損得で動きたくないからね。僕は大物しか取材していないけど、若手が取材候補に挙がっても仲間内で“あの野郎は下っ端だから溝口さんにはまだ会えない”って。妙な信用があるのかもしれない」
こうした人間関係をどうやったら築けるのか。
「こっちもルールに外れたことはやらない。上のクラスは社会常識を持っています。なまじの友だち付き合いはトラブルになります」
今の山口組の衰退をどう見ているのか。
「竹中武という組長は僕なんかにも義理堅く、男一匹で面白かった。いろんな問題に悩み、苦しみ、楽しんだ組長です。それに対して、人間的に面白くなくて、自分のことしか考えない組長もいる。そういう組長ばかりだから、組織の危機に対応できない。高山清司若頭も、ケンカや交渉事では切れ者だが時流が読めずに、運命に負けている。分裂抗争で勝っても、ヤクザ全体のことを考えれば、今や世論からはつまはじきにされ、人権がないどころじゃない。もっと“業界全体”を考えなきゃいけない立場なのにやっていない」
どの世界も同じだが、将来展望がない親分がトップに立つと、組織は衰退の一途……が分かる書でもある。