仙台市若林区の災害公営住宅(復興住宅)に入居する女性(81)は5月上旬、50代の次男と別居し、一人暮らしになった。次男の昇給によって「政令月収」(控除後の所得)が入居基準の15万8000円を超える収入超過世帯となり、別居しないと数年後に家賃が20万円近くまで跳ね上がるためだ。「面倒を見てくれる子供と離れ、復興住宅は一人暮らしの高齢者ばかりになる。孤独死が怖い」。東日本大震災から10年が経過しても住まいの悩みは続いている。
女性は、震災の津波で同区荒浜地区の自宅が流され、1カ月後に夫を病気で亡くした。次男と2人で5年近く仮設住宅で暮らした後、2016年春から復興住宅の4K(65平方メートル)に住んでいる。
息子昇給で収入基準超過…「素直に喜べず」
しかし、2年前に次男の給与が増えると、政令月収が国の基準を9000円ほど上回り、今年4月から共益費を含む家賃は4万9000円から8万3000円に上昇。金額は段階的に引き上げられ、4年後に19万円台になる。女性は「息子の昇給を素直に喜べないなんて」と唇をかむ。
復興住宅は通常の公営住宅と異なり入居時の収入要件がないが、4年目からは被災者も収入超過の場合は公営住宅法に基づき、明け渡しに努めるよう求められる。周辺相場などを元に算出する「近傍同種家賃」が上限だが、建設費の高騰などで実際の相場より高い傾向だ。女性の19万円台は市内で最も高額とはいえ、15万円以上になるケースが多い。
家賃は家族構成や収入、住宅の立地など複雑な計算で決まるため、女性は通知書で初めて詳しい金額を知った。震災後に自転車で転倒してけがをし、パートの職場まで車で送迎してくれる次男との別居は不安だが、それしか復興住宅に住み続ける方法がなかった。
同じ復興住宅に住む70代の女性も息子と2人暮らし。20年度から家賃の上昇が始まり、近く退去する。「慣れたし便利で、病院も近いからここにいたいけど」。民間賃貸住宅に移っても、4月で締め切られた生活再建支援制度の加算金(複数世帯、賃貸は50万円)の対象にはならない。
仙台市によると、復興住宅の収入超過は1月末現在で163世帯あり、今後退去を選ぶ人も多いとみられる。収入超過者は、もはや「被災者」ではないのだろうか――。仙台市は周辺に民間賃貸住宅があり、被災者以外にも入居を希望する人が多いことから、市は「被災者と、低廉な住宅を必要とする低所得者向けの住宅確保の両面をみる必要がある」と理由を説明する。
岩手大の船戸義和・特任助教によると、岩手県内では家賃の引き上げによって、自治会の役員を務めたり、コミュニティーの中心的役割を果たしたりした人の退去が増えている。船戸特任助教は「復興住宅と公営住宅が同じ取り扱いでは、恒久的な住宅再建ではなく『止まり木』にしかならない。公営住宅の制度に合わせた運用は、人の復興につながらない」と話す。【深津誠】