新型コロナウイルスワクチンの接種を担う全国の医療機関や自治体にとって、細心の注意が求められるのが「ワクチンの管理」だ。現在、国内で広く使われている米ファイザー製のワクチンは、低温で管理した上で、使用時には生理食塩水での希釈も必要となる。ささいなミスで貴重なワクチンを廃棄する事態を避けようと、失敗例を集めて注意喚起に乗り出す自治体も出てきた。
「会場の設備やマニュアルの周知が不十分で、ミスが続いてしまった」。神戸市の「ワクチン管理監」に就いた斉藤博之氏(市前環境保全部長)は今月3日、取材に対し、説明した。
医療従事者や高齢者向けの接種で広く使われているファイザー製ワクチンは、冷凍状態から使用前に冷蔵庫で解凍し、生理食塩水で希釈してから投与される。常温解凍の場合は、2時間以内の希釈が必要だ。
神戸市では5月11日、配送業者が市内3か所の集団接種会場にワクチンを届けた際、保冷容器から出した状態で現地スタッフ(委託業者)に受け渡された。この時、冷凍庫のカギを持った市職員が不在だったため、常温で約2時間放置された結果、960回分が使えなくなった。
市は再発防止のため、ワクチン管理監を新設して体制を強化したが、5月23日には、接種会場の保冷庫の電源プラグが外れ、21度まで上昇。215回分が廃棄処分となった。
和歌山県有田川町では、冷凍庫の温度が上がり、990回分が廃棄処分に。町によると、停電対策で6月1日に非常用電源に切り替えたところ、2日朝、冷凍庫内の温度が11・2度に上昇していた。冷凍庫への配線が約60メートルと長く、電圧が弱まって電力が不足したとみられるという。
福岡県大牟田市の国立病院機構大牟田病院でも、5月28日、冷凍庫からワクチン175瓶が入った箱を取り出し、1瓶を抜き取った後、残り174瓶を常温で約3時間放置。1044回分が無駄になった。
担当者は「ファイザー製は、一般的なワクチンに比べ、超低温で厳格な管理が必要など、取り扱いが特に難しい。チェックシートで作業手順をしっかり確認するようにしたい」と話す。
読売新聞は、東京23区と道府県庁所在市の計69自治体に取材したほか、各地の自治体で公表されたケースなども含めて集計。その結果、これまでに廃棄されたワクチンは7000回分以上となることがわかった。
東京都港区の集団接種会場では5月17日と19日、ワクチンを規定の2倍に希釈し、計12回分を廃棄するミスがあった。担当者が希釈したワクチンに、他の人が勘違いで生理食塩水をもう一度加えたのが原因だった。
区担当者は「集団接種会場では、医療従事者らスタッフが日々入れ替わる。適切な声かけや確認を改めて徹底したい」と話す。
予約した人が接種会場に現れず、泣く泣く廃棄するケースも後を絶たない。
静岡市では、5月26、27日の2日間の高齢者向けの接種で、キャンセルなどにより約30回分が余った。急きょ保健所の職員らに打ったが、19回分は接種希望者が見つからず、廃棄した。
こうした無駄を減らそうと、東京都世田谷区は、接種会場近くの幼稚園や保育園、小中学校に依頼し、キャンセルが出た場合に電話すれば10分以内に来られる接種希望者をリスト化。東京都中央区は予約分より少ない量を解凍・希釈し、キャンセルによる余剰がなるべく出ないようにしている。
厚生労働省は「コロナワクチンの扱いは医療機関でも慣れていないところがある。自治体向けの説明会で注意点を定期的に呼びかけていく」としている。
「アクシデント事例集」作成の自治体も
埼玉県戸田市は、全国で起きたワクチン接種のミスをまとめた「アクシデント事例集」を作成し、5月から、個別接種を行う市内の医療機関に配布している。
事例集は、報道をもとに集めた36事例について、「保管・解凍・搬送に関する認識不足」「注射器の取り扱いに関する認識不足」など6項目に分類して紹介。予定人数を上回るワクチンを注射器にセットしたため31回分を廃棄した事例などを取り上げている。
市危機管理防災課の担当者は「ミスは誰にでも起こりうる。他の失敗例を参考にしてほしい」と話す。