事件指揮は現場でも会議室でも――。福岡県警が、殺人事件などの捜査で発生直後の現場をいつでも疑似体験できるようVR(仮想現実)画像システムの導入に乗り出した。臨場感のある映像を残して事件解決に役立てるのに加え、現場で捜査員の「密」を避けることで新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐのが狙い。県警によると、犯罪現場でのVR活用は全国初で、2021年度中の運用を目指している。
VRは「バーチャルリアリティー」の頭文字で、専用のゴーグルを着ければ、目の前に広がる360度の映像の世界を現実のように体験できる技術。ゲームの他、観光地巡りや不動産物件の内覧などさまざまな分野で活用されている。
福岡県警は、殺人や火災などが発生した場合、現場を全方位カメラで複数地点から撮影。画像は捜査本部で共有し、会議室にいてもゴーグルを着ければ発生直後の事件現場に立っているかのような体験ができる仕組みを考えている。県警はシステム導入に必要な費用として約2200万円を20年度の県の一般会計補正予算に計上した。
導入の背景にはコロナ禍もある。21年1月、福岡県糸島市内であった事件の捜査で、本部捜査1課と鑑識課の捜査員が相次いで感染した。ある捜査幹部は「事件現場でも換気が求められるが、証拠保全の観点からはそのままの状態が理想。マスク着用などの対策では限界があり、現場は危険と隣り合わせだ」と明かす。県警はシステムの導入で、各課が必要以上に捜査員を投入せずにすみ、現場での活動時間も短縮できることで感染リスクが減らせると期待している。
また、県警は未解決のまま捜査が長期化した場合の引き継ぎにも役立つと想定している。00年12月に発生した東京都世田谷区の一家4人殺害事件では、現場である自宅が経年劣化で倒壊する恐れがあるため、警視庁が屋内の様子などを3D映像で記録した。県警はこの取り組みを踏まえ、発生当初の現場をいつまでも体験できる仕組みは、捜査員が入れ替わるような長期化する捜査で有効とみる。
県警は今後、初動捜査で足跡や指紋、血痕の採取などを担う鑑識活動と、新システムで撮影するタイミングをどうすみ分けるかなどを刑事部内で協議し、メーカーを選定して運用開始を目指す方針だ。
県警刑事総務課の寺沢憲統括管理官は「コロナ禍では有用な取り組み。プロの捜査員の目に科学的な技術を加えた幅広い視野を持って捜査に当たりたい」としている。【飯田憲、浅野孝仁】