「会長はコロナ禍に寿司デート」日本医師会の”沈没”を多くの医師が喜んでいるワケ

長引くコロナ禍の中で、日本医師会トップの中川俊男会長(69)の言動が注目されている。
「週刊文春」2021年5月20日号では、まん延防止等重点措置(まん防)が適用されている最中の4月20日に「発起人として政治資金パーティーに参加」と報じられた。
また、「週刊新潮」同年5月27日号では、定例記者会見で「3密の回避」「我慢のお盆休み」を自ら呼び掛けていた2020年8月に、女性同伴で“寿司デート”を楽しんでいたと報道された。
次いで同誌の2021年6月3日号では、同伴女性は医師会の職員であり、中川会長の猛プッシュで「年俸1800万円」という“医師会一番の高給取り”になったという記事が掲載された。
この一連の報道以前にも、日本医師会に対しては多くの批判が寄せられていた。それは、「日本医師会=医師の好待遇や既得権益を守るための利権集団であり、日本最大の圧力団体。新型コロナ対策の抵抗勢力として足を引っ張っている」といった内容だ。
フリーランスの麻酔科医である筆者は個人的に「日本医師会幹部には困った高齢医師が多い」という意見に同意する。その一方、後述するように「勤務医やフリーランス医師の多くは医師会会員ではない」と反論したい気持ちも抱いている。
そうした中、定期的に会見を開いてきた中川会長の「個人活動」のゆゆしき問題が噴出したことで、他のメディアやWeb掲示板やSNSでは日本医師会や会長への苦言や反発で炎上状態になった。その状況を招いたのはしかたない面もあるが、医師会という組織を誤解した状態での発言も少なくない。そこで、今回は「ニュースで耳にする割には誤解されやすい」日本医師会について解説してみたい。
よくある誤解の筆頭は「日本医師会長は全ての医師を網羅」「医師会長は全医師の代表」だろう。会員数は約17万人で(医師全体は32万人)、その多くは開業医であり、中川会長は「開業医の代表」と言える。多くの開業医が医師会に加入する最大の目的は、「医師国保(本人のみならず家族や従業員も加入可能)」が、一般自営業者が加入する国民健康保険に比べて格安だからだ。また日本医師会の下部組織である市町村医師会では、会員同士で相談して「休日当番医」制度を設けることが多い。その他、産業医や学校医や保育園嘱託医などの案件の仲介や、開業医向けの勉強会も開催されている。
制度上は勤務医も医師会に加入することは可能だが、健康保険は基本的に事業者(病院)負担でカバーされ、仕事や勉強会の内容もマッチングしにくいので、実際の加入者は少ない。「医療費削減」や「勤務医の働き改革」そして「コロナ患者急増時の病床数確保」のためには、「公立・私立・日赤・JA……など乱立する中小病院を統廃合して効率化」が必要であることは明白だが、日本医師会はむしろ「中小病院の乱立」する現状維持に固執しており、勤務医の中には反感を持つ人も多い。中小病院は、コロナ患者の受け入れ態勢が未整備であることが多く、このことが「医療現場のひっ迫」を招いているのは確かだろう。
「医師会の政治力」「医師会が自民党に圧力」など、ニュース解説などで耳にすることは多いが、日本医師会そのものはタテマエでは学術専門団体であり、日本医師会雑誌という学術誌を発行している。下部組織には総合政策研究機構(日医総研)というシンクタンクもあり、週刊新潮が報じた中川会長の“寿司デート”をした女性が主席研究員として在籍している(もっとも、その研究内容が医師仲間の間で話題になることはないが……)。
医師会が学術専門団体だとすれば、中川会長が定期的に会見を開いて政府にコロナ対策などに物申しているのはどういうことなのか、といぶかしく思う方もいるだろう。
会見に関しては中川会長の単独プレーとの指摘もあるが、実は、日本医師会の連携組織に日本医師連盟があり、医師会の政治活動は制度としてはこの連盟を介して行われるようである。現在の日本医師連盟トップページは、小児科医師でもある自見はな子参議院議員のホームページとリンクが張られており、両者の強い絆をアピールしている。「まん防なのに政治資金パーティー」報道のあった政治家も自見氏だった。なお、自見氏は2020年夏、文春砲(8月6日号)において、衆議院議員・厚労省副大臣で妻子ある橋本岳氏と不適切な関係を持ったと報じられたのも記憶に新しい。
日本医師会長選挙は直接選挙ではない。都道府県ごとに代議員を選出し、代議員による選挙によって選ばれるのだ。都道府県医師会の代議員になるには、地元の医師会で長年尽力して人脈を作ることが一般的なので、代議員のほとんどは60~70代の男性医師となる。さらに、高齢の代議員による2段階選挙システムなので、カリスマ性のある若手候補者が会長選挙に立候補しても当選しにくい。若手開業医や都市部の開業医は、こういう雰囲気を嫌って、あえて加入しない者も増えている。そのため、日本医師会のポリシーは「現状維持」となりがちなのだ。
日本医師会が最も政治力を振るったのは、1957~83年の武見太郎氏が会長だった時代だろう。日本医師会のみならず歯科医師会/薬剤師会にも強い影響力を持ち、75年には世界医師会会長にも就任した。73~83年は「高齢者医療費自己負担無料」政策が施行され、「病院待合室をサロン化する高齢者」であふれていた。骨董鑑定士の中島誠之助氏も、著書の『骨董掘り出し人生』の中で「(70年代後半は)お医者さんが一番金持ちだった時代」と述べている。
現在の日本医師会には幸か不幸か武見太郎氏のような強烈なリーダーはいない。武見氏の3男である武見敬三氏は参議院議員だが医師ではなく、医師会との関係も薄いと見られる。また、2021年6月4日には「高齢者の窓口負担2割」法案が可決され、施行後には多くの開業医が減収となることが予想される。
中川会長の“寿司デート”について、前々会長の原中勝征氏は前出・週刊新潮(6月3日号)で記者の取材を受け、「(メディアが)記事を書くことでなにかが動いて、それが国民の幸せにつながるのが一番だと思っています」と、“中川体制”の早期退陣を期待しているともとれるようなコメントを残している。
日本医師会には少なくとも武見時代のような統制力はない。今回の報道で中川会長の求心力もさらに弱まり、今後の医師会の活動に期待する医療従事者は少ない。よって、医師会としては現状維持をするのが精いっぱいで、結果的にゆるやかに“沈没”していくことが予想される。
そうした業界内の先行きの暗さを見越してか、医師会に加入しない若手医師は増え続けている。結局、日本医師会の変革や医療界の変革は、中川会長を含む高齢者ではなく、単なる圧力団体・抵抗勢力と言われている現状をよしとしない若手医師の台頭を待つしかない状況なのだ。
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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)