【有本香の以読制毒】誰が「対中非難決議」を潰したか? 全野党は承認も自民党内に「あんまり興味ないんだ」と言い放つ人物

通常国会閉会の日に当たる16日の朝、私は、8年半前の2012年冬、ドイツ・ミュンヘンを訪れたときのことを思い出していた。 旅の目的は、当地に住む亡命ウイグル人を取材することだった。ミュンヘンには、世界最大のウイグル人コミュニティーがあり、当時、この街の周辺だけで約500世帯、1500人ものウイグル人が住んでいた。皆、中国当局による人権侵害から逃れるため、故郷を離れた人たちだ。その惨状を国際社会に訴える活動をする「世界ウイグル会議」の本部もここにある。 同会議の総裁、ドルクン・エイサ氏は筆者の友人だ。そのドルクン氏のもとを私が訪ねた期間、フランスから初老のウイグル男性が一人訪ねてきていた。 その人は、私を紹介されると、開口一番、東日本大震災の見舞いを言い、「震災の報道を見ていてもたってもいられず、住まいから100キロ離れたパリの日本大使館へ行って、少額だが寄付をした」と言った。彼は息子3人を、09年のウルムチ事件で中国当局に殺され、亡命した人だった。 「息子さんを殺されての亡命生活は大変でしょうに、日本に寄付くださるなんて…」と私が言うと、彼はこう答えた。 「私の息子たちは自分の意志で、民族のために闘って死んだんだ。しかし、津波にのみ込まれた日本の人々はそうじゃない。自分の意志に関係なく、ある日突然、天災に遭うなんて実に気の毒だよ。そんな人たちを助けるのは人として当然だ」 返す言葉がなかった。 先進7カ国(G7)の一角を占める大国であるわが国。その国民である私たちの代表が、日本の行方を論じ、決定する国会では、ウイグル人への苛烈な人権侵害を行う中国政府を非難する決議が見送られた。 全野党が承認していたにもかかわらず、最後の最後、自民、公明の両与党がまとまらず国会への提出がかなわなかった。 自民党関係者と支持者らは「公明党が潰した」という。しかし、ほぼすべての事情を知る筆者はそうは思わない。政界きっての「親中派」とされる自民党の二階俊博幹事長と、その「懐刀」と言われる林幹雄幹事長代理は結局、「対中非難決議」の文案に「承認」のサインをしなかったという。ミャンマーの国軍を非難する決議にはすんなりサインをしたにもかかわらずだ。 目撃した議員によると、ミャンマーに関する決議は、ミャンマー議連の会長を務める自民党の逢沢一郎衆院議員が、本会議場で幹部らの承認サインを集めて回るという、いとも簡単な手続きで「サッと出された」そうだ。
通常国会閉会の日に当たる16日の朝、私は、8年半前の2012年冬、ドイツ・ミュンヘンを訪れたときのことを思い出していた。
旅の目的は、当地に住む亡命ウイグル人を取材することだった。ミュンヘンには、世界最大のウイグル人コミュニティーがあり、当時、この街の周辺だけで約500世帯、1500人ものウイグル人が住んでいた。皆、中国当局による人権侵害から逃れるため、故郷を離れた人たちだ。その惨状を国際社会に訴える活動をする「世界ウイグル会議」の本部もここにある。
同会議の総裁、ドルクン・エイサ氏は筆者の友人だ。そのドルクン氏のもとを私が訪ねた期間、フランスから初老のウイグル男性が一人訪ねてきていた。
その人は、私を紹介されると、開口一番、東日本大震災の見舞いを言い、「震災の報道を見ていてもたってもいられず、住まいから100キロ離れたパリの日本大使館へ行って、少額だが寄付をした」と言った。彼は息子3人を、09年のウルムチ事件で中国当局に殺され、亡命した人だった。
「息子さんを殺されての亡命生活は大変でしょうに、日本に寄付くださるなんて…」と私が言うと、彼はこう答えた。
「私の息子たちは自分の意志で、民族のために闘って死んだんだ。しかし、津波にのみ込まれた日本の人々はそうじゃない。自分の意志に関係なく、ある日突然、天災に遭うなんて実に気の毒だよ。そんな人たちを助けるのは人として当然だ」
返す言葉がなかった。
先進7カ国(G7)の一角を占める大国であるわが国。その国民である私たちの代表が、日本の行方を論じ、決定する国会では、ウイグル人への苛烈な人権侵害を行う中国政府を非難する決議が見送られた。
全野党が承認していたにもかかわらず、最後の最後、自民、公明の両与党がまとまらず国会への提出がかなわなかった。
自民党関係者と支持者らは「公明党が潰した」という。しかし、ほぼすべての事情を知る筆者はそうは思わない。政界きっての「親中派」とされる自民党の二階俊博幹事長と、その「懐刀」と言われる林幹雄幹事長代理は結局、「対中非難決議」の文案に「承認」のサインをしなかったという。ミャンマーの国軍を非難する決議にはすんなりサインをしたにもかかわらずだ。
目撃した議員によると、ミャンマーに関する決議は、ミャンマー議連の会長を務める自民党の逢沢一郎衆院議員が、本会議場で幹部らの承認サインを集めて回るという、いとも簡単な手続きで「サッと出された」そうだ。