「菅首相が言う『安心安全な五輪』はコロナ対策の1点のみに集約されているように見えます。テロリズム研究を専門とする私は、これに非常に懸念を覚えます」
こう苦言を呈するのは危機管理のコンサルタント企業OSCのアドバイザーで清和大学講師(非常勤)の和田大樹氏だ。
新型コロナウイルスの感染拡大により、国内でもすでに1万4000人を超える死者が出ている。オリンピックを運営する上でコロナ対策の徹底は当然のことだが、前出の和田氏はさらに続ける。
「これまで各都市で開催されてきたオリンピックではテロ対策は最優先事項でした。しかし、今回の東京五輪ではその対策がまったく見えてきません。警察などは準備をしているとは思いますが、それが国民や世論に十分に伝わっていません。五輪を開催するのであれば、テロなど治安面も国民に十分に周知する必要があります。現時点でテロの危険性を意識している国民はどれほどいるでしょうか」
■ミュンヘン、アトランタ、ソチ大会
世界中から注目を浴びる五輪はこれまで幾度となくテロの標的になってきた。例えば、「史上最悪の悲劇」といわれる1972年ミュンヘン五輪では、パレスチナの武装勢力が選手村を襲撃。11人のイスラエル人選手らが命を落とした。96年アトランタ五輪では、メイン会場であるセンテニアル公園で爆弾テロが発生し、2人死亡、111人が負傷。2014年のソチ五輪も、開幕目前にイスラム武装勢力の自爆テロが相次いだ。
現状では国際的な人流が制限されているため、「緊張状態にある中東情勢絡みのテロは起きにくい」と前出の和田氏は言うが、日本人によるテロ活動も想定しておくべきではないか。
■国内犯の憎悪テロも
コロナ禍で日本経済が逼迫していることは言うまでもなく、実質的失業者や企業の廃業数はおびただしい数に上る。昨年4月はコロナ禍を悲観した老舗とんかつ屋店主が油をかぶって焼身自殺する凄惨な事件も起きた。なかば五輪のためとも言える緊急事態宣言により休業を余儀なくされるなど、国内にも五輪開催への不満がくすぶっている。
「コロナ禍によってあらゆる面で分断が進み、反五輪、反グローバリズムの論調が強まる今、日本人が単独テロを起こす可能性は排除できません。近年、ヨーロッパで発生するテロの特徴が、ナイフやトラックなど身近な物を使った単独テロです。誰でもやろうと思えばすぐにできるので、対策は非常に難しい。だからこそ、政府は国民にテロの危険性を周知させることが必要なのです。我々一般市民がそのリスクを頭の片隅に置いておくだけでも、テロに遭う危険性を減らせます。人々でごった返す場所を避ける、長居しないなど個人でできるテロ対策もあります。コロナでは3密回避が重要ですが、テロ対策でも密を避けることが重要なのです」(和田氏)
敵を欺くため、あえて公にしていないのかもしれないが、後手、後手のコロナ対策を見るにつけ、盤石なテロ対策を講じているとはとても思えないのだが……。