《東京・池袋で平成31年4月、乗用車が暴走して通行人を次々とはね、松永真菜(まな)さん=当時(31)=と長女、莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)の21日の公判は開始から40分が経過しても、真菜さんの夫、拓也さん(34)による質問が続いた》
松永さん「事故を起こしたという自覚はありますか」
飯塚被告「自分の車のために2人が亡くなったことは十分認識しているし、多くの人がけがをしたことも認識しており、重く受け止めています」
松永さん「今までの言動を聞いて、遺族の思いに向き合っていないと思う。その理由は何だと思いますか」
《飯塚被告はしばし、沈黙してから答えた》
飯塚被告「最愛の2人を亡くした松永さんの思いを私は語ることはできませんが、本当に悩まれて悲しまれて、苦しまれたという風に想像している。大変申し訳なく思っています」
松永さん「2人の無念と向き合っていないといわれても、仕方ないとは思いませんか」
《飯塚被告は、再度沈黙した。少し言いよどんでから続けた言葉は、若干震えているようにも聞こえた》
飯塚被告「あの、向き合っていないという意味はどういう意味か分かりませんけれども、私としては心を痛め、重く受け止めているつもりです」
《その言葉を聞いた松永さんは「ああ…」と、嘆息ともつかない声を漏らした》
松永さん「私は(あなたに)刑務所に入ってほしいと思う。その覚悟はありますか」
飯塚被告「はい。あります」
松永さん「刑務所に入ってほしい理由は何だと思いますか」
《飯塚被告は「最愛の2人を亡くされた苦しみと悲しみを…」と、言いかけたところで沈黙した。言葉がもつれているようで、はっきりとした返答とはならなかった》
松永さん「有罪のとき控訴をするか」
飯塚被告「分かりませんが、なるべくしないようにと思っています」
《松永さんは疲れたように「私からは以上です」と言って、質問を終わらせた》
《その後、被告人質問は亡くなった真菜さんの父、上原義教さん(63)に代わった。上原さんは時折声を詰まらせながら、飯塚被告に語り掛けるように質問を始めた》
上原さん「いろいろと質問されて答えてきたが、あなたは人間の心を持っていないのかと。『私が悪かったです』と、過ちを認めないことに、悲しみと怒りを覚える。あなたは(これまで)立派な仕事をして、そして生きてきた。その人が自分の過ちを認めない。『自分が車に乗って殺した。私がすべて悪かったです』と、そう謝れば私たちの苦しみや悲しみはもう少しは違ったかもしれない。事故から何年たったか分かりますか」
飯塚被告「2年です」
上原さん「(その間)あなたはどう生きてきましたか」
《飯塚被告は自分の持病のことやそのリハビリに専念してきたこと、亡くなった2人の月命日には線香を上げていたことなどを話した》
飯塚被告「無罪を主張するのは心苦しい。決して、ご遺族の苦しみと悲しみを理解していないわけではない」
上原さん「あなたの話は全部自己中心的だと思う。あなたが私と逆の立場だったらどうか。ずっと車のせいにして、裁判を続けている。あなたなら許せるのか」
《上原さんは語気を強めながらこう問いかけたが、弁護側から「仮定的かつ、意見になっている。事実を聞くようにお願いします」との指摘があった。法廷は少しの間、誰も発言せず静寂が訪れた。飯塚被告もうつむき加減で言葉を発しない。裁判長が上原さんに、「お気持ちは分かるが、事実を聞くのが被告人質問の趣旨ですから」と、諭すように言った。上原さんは再び質問を始めた》
上原さん「あなたは今まで、真菜と莉子をひいて反省していない。悪いと思っていないのですか」
飯塚被告「前にも申しましたけども、2人が亡くなったことについては本当に悔やんでおります。車でなければ事故は起こらず、2人の命もそのまま大丈夫だったわけですから。本当にその点は申し訳なく思っています」
《飯塚被告は、ここでも車自体に問題があったかのような返答をした》