路上飲みの一種で、コロナ以前から営まれてきた「ワンカン」が危機に瀕している。ワンカンとは、仕事やバイト終わりにコンビニで買ったお手頃な酒を、路上や公園でサクッと飲んでから帰ることで、2000年代にアパレル販売員らが使い始めた言葉らしい。
まん防移行後も酒類提供店への締め付けが続くなか、感染拡大の元凶と批判されても「ワンカン」飲みを続ける彼らの主張に耳を傾けた。
◆規制の標的「若者のワンカン飲み」とは?
「え? 今、渋谷? わたし原宿なんだけど宮下公園でちょっとワンカンしない?」 6月11日の金曜日、日中は30度を超えた気温も20時を回り、ようやく過ごしやすくなった渋谷のMIYASHITA PARKを訪れると、15組ほどの若者たちが、ビールやチューハイの缶を手に語り合っていた。3人、4人というグループもいたが、大半は横並びに座って静かに飲んでいる2人組。
広告関係の仕事をしているという会社員の凜さん(仮名・30歳)とふみさん(仮名・29歳)もそのうちの一組だ。
ふみさんは「渋谷ドンキの酒階レジ50億人並んでる」という凜さんのツイートを見て冒頭のLINEを送り、中間地点のMIYASHITA PARKで合流したのだという。コンビニに売っていない「本搾り」のチューハイを買いにドン・キホーテへ行ったという凜さん。
「レジの列は50億人じゃなくて50人ぐらい。みんなカゴに缶のお酒を入れてたから、ワンカンの買い出しだと思います」
◆「若者の外飲みが元凶」と言われても
歌舞伎町の雑居ビル階段。博史さん(左・仮名・32歳)と麗奈さん(右・仮名・28歳)は会社の同僚だ。「こんなに人が溢れているのは予想外」と苦笑する
緊急事態宣言下では、飲食店での酒類提供が禁止されたため、開き直って路上飲みをする居酒屋難民が大量に発生。ニュースやワイドショーでは、そんな“荒れた若者”の映像が連日映し出された。傍目にはワンカンも変わらないだろう。
だが、職場の近くで周囲に気遣って短時間で切り上げるワンカンは、コロナ以前からささやかに営まれてきた外飲みカルチャーのようだ。とはいえ、以前からごみが放置されるなど問題視されることも多かった。2人は露店で買った台湾唐揚げをつまみに、他愛もないことを話題に穏やかな時間を過ごしている。
21時頃ふみさんたちと別れて、多くのアパレルショップが集まる原宿のキャットストリートへ。「ワンカンの聖地」とも呼ばれる場所だが、金曜の夜だというのに、人影はまばらだ。
◆会社から「ワンカン禁止令」が…
閉まった店舗の前で座ってお酒を飲んでいた30代の男性2人に声をかけると、大手アパレルショップの販売員だという。2回目の緊急事態宣言発令後に会社から「ワンカン禁止令」が出されており、匿名で写真を撮らないことを条件に話を聞く。
「僕らは今でも週2、3回はやってますけど、コロナ前はこのあたりでワンカンは当たり前の光景。ビームスさんはワンカン用のドリンクホルダーを商品化しているほどで、毎晩何組かやっていましたけど、今は見かけませんね」
近くに公衆トイレがなく、コンビニも貸してくれないため、膀胱が耐えられなくなるまで2~3缶を飲んで1時間程度で切り上げる。つまみはコンビニのホットスナック。予算は1人1000円いくかいかないかだという。途中から、後輩の新卒女性も加わった。さぞオシャレな会話をしているのかと思いきや、記者が飛び入りしてしばらくすると、性愛談義などそこらの立ち飲み屋で交わされるようなとりとめのない話題が続いていく……。
「裏原あたりは長年ワンカンをしている人たちが多い」と聞き、そちらに向かったが、飲んでいるのはコンビニ前の1組だけ。ワンカンの聖地には都心の静寂を肴にまったりとした空気が流れていた。
◆「路上飲みを止めさせる前に」若者の声
新宿・歌舞伎町へ向かう。23時を回ったシネシティ広場は、路上飲みをしている若者があちこちに見られ、ヤケクソのような賑わいを見せている。大声で騒ぎ、ゴミの散乱ぶりもひどい。
さつきさんと優太さん(ともに仮名・23歳)は大学からの友人で、社会人1年目。「ワンカン? 知りません。開いてる居酒屋探しながら飲んでます。やってるトコ教えてもらえたら嬉しいです」と、コロナ禍などどこ吹く風。こちらが不安になるほどの能天気ぶりだった。
歌舞伎町では行儀の良い部類だった、友人同士のさつきさんと優太さん(ともに仮名・23歳)。終電で集まり、始発まで飲める闇営業の居酒屋を探していた
後日、ワンカンをしたことがある大学生たちに話を聞いたところ、ダンスサークルに所属する都内の大学4年生、りこさん(仮名・21歳)は「サークルの文化としてワンカンをしていた」と回答。疲れて汗もかいている練習後は、その場で飲んで終電で帰るほうが「全員の需要にマッチする」と笑う。今はサークルの集まりがないのでワンカンはしていない。
飲食店でアルバイトをしている3年生の優花さん(仮名・22歳)は、コロナ禍以降バイト仲間とワンカンをするようになった。室内で飲むことに抵抗があり、店も開いていないというのが理由だ。「路上飲みを止めさせる前に、闇営業のお店の取り締まりとか、やることはほかにあるのでは」と若者ばかりが槍玉に挙げられる現状に疑問を呈する。
ほかにも「若者以外にも飲んでいる人はたくさんいる」(響子さん・仮名・21歳)、「店で飲むほうが危ない気がする。若者の路上飲みが元凶というのは言いすぎ」(沙彩さん・仮名・20歳)など、大学生からは同様の声が聞こえた。ただ、どれも自分が飲みたいだけという主張にも聞こえるが……。
◆外飲み歴10年以上の大人が語るメリット
ワンカンをしながらタバコを吸う若者。路上喫煙禁止のエリアのはずだが…
10年以上公園や駅前広場で外飲みをしてきたというライターの鶴見済氏(@wtsurumi)は語る。
「基本的に行政は、公共の場で勝手なことをされるのは面倒なのでやめさせたいんです。実際に、露天商や屋台を撤去させてきた歴史があって、コロナを口実に路上や公園での飲酒も禁止したい。そんな思惑を感じます」
鶴見 済氏
鶴見氏が路上や公園飲みを選ぶ理由は、圧倒的にコスパが良いうえに、精神的なラクさを挙げる。
「何か集まりがあって居酒屋で打ち上げ、っていうと、半分ぐらいに人数が減ってしまいますが、その場で飲むのなら気軽に参加できますし、抜けるのも自由。そのうえ、公園で飲むと全然疲れないんですよ。飲み屋だと騒がしい声やおしぼりの感じとかが頭に残りますけど、それが公園だと木々や空の印象が強く、思い返すと美しい記憶しか残らない。日本人は花見も好きですし、節度を守ったワンカンぐらいは許容する社会のほうが生きやすいですよ」
とはいえ、ゴミのポイ捨ての問題や、国内のコロナの感染再拡大など批判の対象になるのももっともな点もある。気兼ねなくワンカンできる日は訪れるのか。
◆社会学者が「ワンカン」を分析
若者の動向を知る社会学者の宮台真司氏(@miyadai)に聞いた(以下、宮台氏の寄稿)。
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コロナ禍においてワンカンを含むいわゆる路上飲みや、居酒屋の闇営業がどんどん広がっています。これは、何が合理的かを巡る判断を誰に委ねるのかという問題です。
変異ウイルスが蔓延するまでは、無症候が大半で症状も軽い若い人達は自由に行動してもらい、重症化のリスクが高い持病持ちや高齢者をゾーニングして隔離するのが合理的な対策のはずでした。ところがそれをしない。また、「人流の抑制」を言い、同時に「オリンピックはなんとしてもやるんだー!」と言う政府に合理性はありません。
若い人達が政府の呼びかけと裏腹な行動をしているのは、秩序紊(ぶん)乱行動ではなく、政府の一貫性のない施策に呆れ果てた上で、自分たちで合理性を判断している。これは完全に正しいじゃないですか。ヨーロッパのいくつかの街では同じ理由で若い人達による暴動が起きましたが、日本ではワンカン的なもので終わっています。随分大人しくはあるけれど、僕は自然なことが起こっていると思います。
ただ、大学生はリモート化で病んでいるヤツは多いけど、羊のように従順で悩みを話せる友達もいない。なので、若者とはいっても外飲みや闇営業の居酒屋で飲んでいるのはもう少し年齢層が高めでしょう。また、少人数が1~2缶で済ませるワンカンとは違い、見ていると闇営業や路上での飲みはめちゃめちゃ密だし大声で喋っている。
若い人達にも重症化のリスクがある変異ウイルスが広がっているいまとなっては、結構ヤバいなと感じます。それから、僕の住んでいるあたりだと、朝5時台の渋谷や下北沢の駅前は、路上飲みの後のゴミが散乱してひどい有様。
ゴミを持ち帰ってさえいれば「ワンカン的な動きは当然だよね」という世論が広がる可能性もあったのに、散らかすことで「最近の若いヤツは無秩序だ!」となってしまっていることは残念ですね。
宮台真司氏
<取材・文/池田 潮 取材・撮影/碇ブドウ 協力/小林 唯>
【鶴見 済】 ライター。1993年に社会現象となった『完全自殺マニュアル』を発表。現在はつながり作りの居場所や0円ショップ、共同の畑などを行う。近著は『0円で生きる』『脱資本主義宣言』など
【宮台真司】 東京都立大学教授。社会学者。映画批評家。1959年生れ。専門は社会システム理論。『日本の難点』、『14歳からの社会学』など著書多数。近著は『崩壊を加速させよ』