「どこかに避難していてくれれば…」熱海土石流、無事祈る関係者

激しい土石流災害から一夜明けた4日、静岡県熱海市では依然として多くの人の安否が分からない状態が続く。家族や友人らの無事を祈り、地元住民らは被災現場や避難所、遺体安置所を駆け回った。入り乱れる情報に翻弄(ほんろう)される地元住民らは「せめてどこかに避難していてくれれば」と無事を願い続けている。
4日午前10時ごろ、現場下流域にある「逢初(あいぞめ)橋」の捜索現場で、土砂災害の危険を伝えるスマートフォンのアラームが一斉に鳴り響いた。「退避! 退避!」。警察官たちは泥の中を特殊な棒を使って探る手をいったん止め安全な場所まで身を引いた。雨は断続的に降り続き、2次被害の恐れがあるため、捜索作業は度々、中断を強いられた。
身近な人が土石流に巻き込まれていないか、安否を気遣う人たちが多くいる。4日午後2時過ぎ、静岡市の自営業男性(40)が1人暮らしの母親(69)の安否をたずねて市内の遺体安置所を訪れた。
3日午前10時半ごろ、母親から無料通信アプリ「LINE(ライン)」で自宅近くを流れる小川に大量の土砂が流れている動画が送られてきた。正午過ぎに気づき、電話をかけたがつながらなかった。「ニュースの映像を見る限り、家は流され、土砂で埋まっているのではないか」と言う。
電車が動き始めた4日に熱海市に入ったものの、家の周囲には立ち入れなかった。各地の避難所にも母の姿は見当たらない。「何か情報があれば」と訪れたのが遺体安置所だった。「どこかに避難してくれていればいいのですが」。男性は自身のDNA型を採取してもらった後、安置所を後にした。
熱海市の高橋進さん(77)は、捜索活動の様子を不安げに見つめていた。橋の近くのアパート1階に住んでいた友人女性(81)と連絡が取れないという。アパートの大家が3日午前11時前に「危ないから逃げて」と電話をした際、自宅にいた女性が「分かった」と応答したことまでは分かっているが、その後の消息がつかめない。
アパートは土砂の直撃を受けて下の川に崩落していた。川は4日も大量の泥水が濁流となって激しい音を立てている。高橋さんは「ただ心配だ。元気な人だったから逃げていればいいが……」と女性の行方を知らないか聞き回った。
地域包括支援センターの看護師、嘉村ミネ子さん(64)も、ケアマネジャーとして受け持つ伊豆山(いずさん)地区の4世帯5人と電話がつながらないという。「3人は80代以上で足が悪い人もいるのに。無事を祈るしかないです」とつぶやいた。
市役所にも家族や親類の安否をたずねる問い合わせが相次いでいる。ただ現場に近づけないことや土石流が国道135号に流れ込んで市が東西に分断されていることもあり、安否情報の確認は困難を極めている。
錯綜(さくそう)する情報に翻弄されながらも、一夜明けて肉親の安否を確認できた人もいる。
市内の電気業、佐野幸与さん(57)は、伊豆山地区で1人で暮らす母幸子さん(93)と連絡がつかず、4日朝から何度も自宅を訪れようとした。だが、濁流と土砂に阻まれ、たどり着けない。「元気とはいえ高齢。携帯電話も持っていないし……」。近所の人に連れられて避難したらしいという話も聞いたが、確かなことは何も分からなかった。
吉報が届いたのは夕方になってからだ。知人から「避難所のリストに名前があるようだ」と知らされた。「会えれば本当に安心できる」。佐野さんはそう言い残すとすぐに避難所へと向かった。【木原真希、深野麟之介、木下翔太郎、春増翔太】