ドーッという地鳴りとともに、土砂は山あいの住宅街をのみ込み、海岸へ達した。静岡県熱海市の伊豆山地区で3日に発生した土石流では、伊豆山港で見つかった女性2人の死亡が確認された。約20人の安否が分からなくなっているが、救出作業は難航している。激しい濁流から逃れてきた避難住民らは、「震えが止まらない」「これからどうすればいいのか」と声を詰まらせた。
「自宅2階から山を見ると、電柱が波打つように揺れ、真っ黒い土石流がものすごい勢いで下ってきた。隣家の夫婦が外に飛び出すのが見えたが、すぐに土砂にのまれた」。避難所となった伊豆山小では、熱海市伊豆山、パート従業員の男性(80)が声を詰まらせた。
男性の家は無事だったが、隣家は土砂に流され跡形もなくなった。「避難所でも情報がない。無事でいてほしい」と語った。
逢初
(あいぞめ)川流域に住む男性(67)は、自宅のフェンスや庭木が流された。「バーンと爆発のような音を聞いたと思ったら、家の外を泥が流れていた。直径約30~40センチの石や丸太が次々に流れてきた」と話した。
現場付近では午後9時40分、陸上自衛隊が重機で土砂をかき分けるなどして、複数の住宅で助けを待っていた6人の救助を完了した。いずれも命に別条はないという。別の場所では、土砂に埋もれた建物から、消防隊員によって、幼い子供を抱いた男性がはしご伝いに救出された。男性は、変わり果てた町の姿にぼう然としていた。
大量の土砂は激しい勢いで家々をなぎ倒し、国道135号にも流れ込んだ。流れる土砂の上に建物が載っている。近くに住む男性(76)は、その異様な光景を前に立ち尽くした。
3日午前10時過ぎ、男性は自宅で「ゴーゴー」と激しく流れる川の音を聞いた。自宅とは徒歩2、3分の距離。外に出ると、すでに国道には大量の土砂が流れ込んでいた。危険を感じて自宅に戻ろうとした時、建物をなぎ倒す
轟音
(ごうおん)とともに、その光景を目の当たりにした。自宅は被害を免れたものの、男性は「恐ろしい」と声を震わせた。
「家を出るのがあと少し遅かったら生き埋めになっていた」。電器店を営む男性(67)は、顔をこわばらせた。午前11時過ぎに妻と車で外出したが、同15分頃に町内会長から「家の前が土砂で埋まっている」と電話を受けた。渋滞で1時間かけて帰宅すると、土砂は店舗周辺の住宅をのみ込み、店舗にも大量の土砂が流れ込んでいた。「父の代から80年近くやってきた店なのに」と落胆した。
自営業の女性(49)は、「土砂がバーッと家の数メートル前まで押し寄せた。人の叫び声も聞こえた。バスが半分ほど埋まっているのが見えた。恐ろしい光景で信じられない」と話した。
伊豆山港近くでは、漁師の男性(61)が土石流に巻き込まれそうになった。「とてつもないスピードで茶色の水と泥、マットレスや材木、石が大きな音とともに流れてきた。近くのビルに逃げて間一髪だった」と話した。
熱海市の自営業男性(57)は、被災地域の実家で一人暮らしをする93歳の母親の身の上を案じた。母がいたはずの実家は、土石流の向こう側で、いまも連絡がつかない。「叫んで安否を確認したかったが、土石流の音で声が届かない。無事でいてほしいが」と祈るように語った。