原因は「盛り土」以外にも…熱海・土石流の対応が遅れた“本当の理由”

2021年7月3日に発生した熱海市の土石流災害。現時点(執筆時7月9日)でも行方不明者の捜索は続けられている。その一方で、避難所ではなく損壊した自宅に住み続ける「在宅避難者」がかなりいるはずだが、いまだ「取り残され」、過酷な環境下に置かれている。彼らへの支援も急務である。

画像は熱海市公式サイトより

本記事では現段階で見えてきた課題を現状とともに論じたい。筆者(古本尚樹)は浜松医科大学で従事中に、静岡県東部の観光地一帯の防災やリスクについて調査を行い、英文論文化した経験がある。
◆取り残される要配慮者たち
熱海市は現状、在宅避難者の動向・把握がほとんどできていない。在宅避難者の少なからずは高齢者、独居者、障がいのある方が多く、自力で避難所へ行けない階層でもある。インフラでは電気はおおむね利用できるが、ガス供給停止と水道断水が続いており、彼らの生活環境は劣悪である。
また、医療や保健、福祉の支援を真っ先に必要としているにもかかわらず、いまだ支援の枠から漏れている。このままでは災害関連死や、健康悪化などへの影響が危惧される。一刻も早く、在宅避難者の確認と支援を行うべきだろう。
◆観光地特有の事情があった

熱海の街並み kazu8

熱海は、面積が小さく、かつ傾斜のきついエリアに、住居や商業施設が立ち並ぶ。また海岸に沿って宿泊施設等が展開されていることもあって、ひとたび地震を含めた自然災害が発生すれば、土砂災害が危惧される地域だった。
観光地特有なのは、固定化された住民と、非固定化された住民(すなわち、建物を保有していても、観光等で宿泊利用する階層)が混在することだ。初期段階から安否確認に手間取ることは、予想されていた。
住民基本台帳は、現状の利用環境は反映されていないので、事前に定期的な住居の利用動態を把握する必要があった。そして、万が一の災害時における自力で避難できない住民への避難支援などを、事前に訓練とともに実践対策をより多くしておくべきだった。地理的に急峻(きゅうしゅん)なエリアでの要配慮者対策をどうしておくか、重点的に行うべきだった。
それでなくても自治体のマンパワー不足と、熱海市自体災害対応が不慣れなのは歴然としている。いわば「後追い」状態なのは、各対応を見ればよく分かる。在宅避難者の件に加え、初期の避難所における物資不足や、設備不足など、ひと昔前の災害対応に近い部分がある。

◆行政は「盛り土」の危険性を提示すべき
今、問題視されている上部にあった「盛り土」に関してだが、この許認可したのは行政である。こうした開発と地域の安全を担保するにあたり、行政はこうした「盛り土」におけるリスクをハザードマップに反映させるか、危険性情報を住民へ提供すべきである。
しかし、許認可した側の行政が「盛り土」などをリスクとして示すと、「リスクがあるのになぜ許可したのか」いう指摘がなされるだろう。そのため、人工的な開発部分をハザードマップへ落とし込む作業は、全国的にもなされることが少ない。今後は必要な安全対策とともに、住民へのリスクをきちんと提示されるべきだろう。
また、開発された土地がその後、どのような処理をされているかについて、行政の監視は限りなく緩い。私は今、北海道在住だが、観光産業を中心に、無秩序に投機で土地を購入する傾向が強まっている。開発がされてもその後、土地が地域に対してどのような影響を及ぼすかなど関係なく、許認可されているのが実情だ。
しかも、開発後に業者が倒産や、権利の移譲など複雑化するなどして、「手がつけられない」状態になっていることも多い。今回の熱海の土砂崩れは、こうした無秩序な開発に関する警鐘でもあると思う。
◆災害対応の不慣れさが明確に

熱海市はこれまで大きな自然災害は発生していなかった。もちろん過去を振り返れば、伊豆半島一帯で死者・行方不明1000人以上を出した狩野川(22号)台風もあったが、これは1958年の出来事。だからこそ今回の土砂崩れで見えてきたのは、熱海市自体の災害対応の不慣れさである。
先述の固定・非固定住民の把握、在宅避難者の把握と支援のみならず、初期段階の指定避難所における設備・物資のなさは、多くの避難住民が指摘をしていた。加えて、コロナ禍でありながらパーテーションもないなど、危機管理体制が脆弱だった。
その後、民間のホテルを活用し始めたが、マンパワーと保管場所が不足し、2021年7月7日「支援物資を遠慮する」と発表した。こういう場合は現金による支援が最も楽なのだ。この課題はかつて、1993年の北海道南西沖地震で、奥尻町がとても苦慮した話が有名だ。それから30年近く経って、似たような話を聞くとは、正直考えもしなかった。
避難所運営のことも同様だが、支援物資が送られてくることは、当然予想できたはずだ。初期の段階から、「必要なものは何か」を提示し、不必要なものの送付は受付けないような対応を初期段階から行わないと、限られた行政職員がその仕分けと保管に追われて、被災者の支援が滞る。

◆問われる静岡県の組織体制

それにしても、内部で見解が分かれる発表をした静岡県は、組織体制としてどうなのか。7月3日の記者会見で、川勝平太静岡県知事は「大雨が原因だったということは間違いない」といった趣旨の発言をしていた。一方、この分野の専門的見地を有している難波喬司副知事は「盛り土の工法が不適切との認識を示している」と真逆の指摘をする。
この検証は行政から切り離した、第三者機関が精査することが重要である。状況が不明瞭な災害直後に、専門家ではない川勝知事がこのような発言をすることに疑問を呈する。これでは県民の安全や安心より、県の保身、責任問題の回避が優先ととられかねない。
今後、復興にボランティアの活動も必須だが、今回の土砂災害はまだ上部に「盛り土」が残っていることと、重機がまだ入れず、手作業でおこなっているので、長期にわたる可能性が高い。日本全体として、この関連した課題に考慮した防災・減災対策が必要だ。
<TEXT/防災・危機管理アドバイザー 古本尚樹>
防災・危機管理アドバイザー、医学博士。専門分野は新型コロナウイルス対策、企業危機管理、災害医療、自然災害における防災対策・被災者の健康問題等。企業や自治体の人材育成にも携わっている。個人サイト「防災・危機管理アドバイザー 古本尚樹」