人間国宝の認定が決まり、今春惜しまれつつ現役を引退した師匠、吉田簑助さんに電話で報告した。「『おめでとう』が5回、聞こえました。ものすごくうれしかった」。この師匠も、父の二代目桐竹勘十郎(1986年死去)も人間国宝。「でも、まさか自分が認定されるとは。身が引き締まる思いです」
中学生だった66年、人手不足のため公演を手伝うことに。初めて舞台の裏側に入り、父の仕事場を見た。「素晴らしかった。先輩方みたいに人形を生きているように動かせたら楽しいやろなあと思いました」。翌年、14歳で簑助さんに師事。
初めは無駄な力が入って人形が動かなかった。足を遣っている時、師匠の機嫌が悪くなり、口をきいてもらえなかったこともある。悪い点が分からず悩んだが「その度に自分で何とか解決しました」。「自分で判断せよ」が師匠の教えだった。入門から54年。「最近やっと、人形はこんなに楽に動いてくれるのだなと分かってきました」
芸域は広く、「義経千本桜」の狐(きつね)忠信、「絵本太功記」の武智光秀など好きな役は多い。多才で、イラストを描いたり、親子向け演目の人形を作ったり、端役の人形が主役になる夢を見るコミカルな新作「端模様夢路門松(つめもようゆめじのかどまつ)」を創作したりと、多方向から文楽の魅力を発信する。
「後進の育成」が今一番大切だと言う。「若い人には、やると思ったら人形と心中していいというくらい、本当に『好き』になってほしいですね」【畑律江】