西村大臣、金融機関任せの要請に見える「自分は有能」という意識

臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、酒類提供を巡る飲食店への“圧力”発言で非難が殺到している西村康稔経済再生担当相について。
* * * 「菅政権、とうとうそこまでやるのか!?」と驚かされた7月8日夜。東京では4回目となる緊急事態宣言が発令され、またか…とうんざりしていたところに、飛び出てきたのが西村担当相の問題発言だ。
西村担当相は記者会見で、酒類の販売事業者に酒の提供停止に応じない飲食店との取引停止を求める考えを表明。さらに、飲食店の情報を取引先の金融機関と共有し、金融機関から順守を働きかけてもらうとまで発言し、一気に話題をさらったのだ。
とはいえ、西村担当相の思惑と逆方向に事は展開。酒類販売業者に求めた飲食店との取引停止には、さまざまな方面から反発の声が上がった。金融機関に融資先の飲食店などへの働きかけを求めるという発言にも、「独占禁止法で禁じられている優越的地位の濫用につながりかねない」と、当の金融機関からさえ戸惑いや批判の声が湧き起こったのだ。
翌日には「日常のコミュニケーションの中での呼びかけ」、「融資を制限する趣旨ではない」と釈明したものの、事態は収拾するどころか悪化の一途を辿り、発言撤回に陳謝、辞職の否定をすることに。
だが、発言撤回したのはいいが、11日に更新したTwitterでは、「趣旨を十分に伝えられず反省しております」と投稿。この文章だと、上手く伝えられなかったこと、誤解を招くような表現をしたことが問題だと思っているということになる。つまり、圧力発言自体、何がどう問題だったのか分かっていないのか、分かっていたとしても間違いだと認めたくないのか、このどちらかだろう。
政府はこれまで、国民への感染対策を“お願いベース”で進めてきた。他方で、人流を止めるため、感染を抑えるため「我慢しろ」と言い続け、要請という名の制約がどんどん幅を利かせている状況だ。私権制限などへの懸念や補償問題が生じるためなどと報じられてきたが、コロナ渦になってから既に1年半。憲法学者たちが指摘してきたにもかかわらず、政府の憲法に対する意識は変わることなく、お願いベースの要請が継続されている。依然として「曖昧性選好」のままなのだ。
人は通常、曖昧なことを嫌うと言われる。だが、上手くいかない確率が高い時、損失が繰り返し見込まれる時は曖昧を好むという。「物事をはっきりさせて責任を取りたくない」、「損失を被りたくない」という気持ちが強くなるのだろう。特に、自分が有能だと感じている場合はなおさらだという。
今回の西村担当相の発言は、一瞬明確な強硬策を打ち出したかと思われたが、「ソフトな恫喝」と非難を浴び、法的な問題もクリアにされず曖昧なまま、金融機関に働きかけを依頼するという形で責任も判断基準も金融機関任せ。言ってしまえば、対策を打ち出した方の立場は曖昧だ。強気で発言した西村担当相だったが、曖昧性選好の要請だったということだろう。
菅義偉首相も、強気の要請の直後に撤回という迷走ぶりに陳謝したものの、「要請の具体的な内容について議論したことはありません」と発言。西村担当相の独断専行というイメージが強くなっているが、要請を容認したという菅首相の責任も、どうやら曖昧なまま終わりそうだ。