新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、首都圏や大阪など6都府県に緊急事態宣言が発令される中、東京オリンピックは予定通りに競技が実施されている。五輪開催は感染者の急増にどう影響を与えているのか。コロナ禍における人々の行動心理を調査し、開催前から警鐘を鳴らしてきた原田隆之・筑波大教授(臨床心理学)に聞いた。【聞き手・田畠広景】
――全国で感染が再拡大しているが五輪との関連は。
◆緊急事態宣言が出ていたが、人は二つの矛盾したメッセージを前にすると、心理的に不安定な状態になって都合の良いメッセージを選ぶ傾向がある。今回はお祭り気分を選んでしまい、感染の危険性をスルーした人が多かった。宣言が何度も出ていたため、同じ刺激の繰り返しで慣れてしまい、身構えなくなった面もある。
――メディアの五輪報道が増えた影響は。
◆開会式を前に自衛隊のブルーインパルスが飛んだ。「お祭りやるけど見に来ちゃ行けません」というのは矛盾した話。人々が出歩くことにつながった。
――「五輪を自宅で見てください」というメッセージは感染抑止になるか。
◆無観客で最悪の事態は避けられたと思うが、テレビを見ながら盛り上がるのは自然な心理。人間の心理はそんな器用にできていなくて、緊急事態宣言のことは忘れてしまい、緊張感はなくなる。
――選手は濃厚接触者に認定されても、試合開始の6時間以内に検査を受けて陰性であれば試合に参加できるなどの措置があった。
◆人は得した事よりも、損した事や不公平に敏感に反応する。「五輪では好き勝手やっているのに」という思いから政府に対する反発が生まれる。五輪を言い訳に外を出歩いている人もその一例だ。
――五輪中止は感染対策に効果があるか。
◆あるだろう。現実的には難しいが、それぐらいのインパクトがなければ変わらない。自粛したらお金を配るというようなインセンティブも効果が期待できる。外出自粛によってどんなポジティブな未来があるのか、科学的根拠に基づいたプランを見せてほしい。
――危機的な状況でも自分は大丈夫と思う「楽観バイアス」が広がっている。
◆政府にも国民にも広がってきていると思う。感染症対策は公衆衛生の専門家だけでなく、人間の心理を加味して対策を打つことが必要だ。
原田隆之(はらだ・たかゆき)
1964年徳島県生まれ。米カリフォルニア州立大心理学研究科修了。東京大大学院医学系研究科で博士号取得。法務省法務専門官などを経て、2017年から現職。著書に「入門・犯罪心理学」など。