大炎上した河村たかし。あれだけ元ネタのインパクトが強いと、スポーツ紙より、淡々と報じる一般紙の見出しのほうが衝撃的です。たとえばこれ。
『河村・名古屋市長 金メダルかじる 表敬訪問 マスク外し突然』(東京新聞・8月6日)
明らかに獰猛な動物が襲いかかってます。ヤバい生物級であることが伝わってきます。
そのあとの報道で、4月には名古屋城天守から地上に下ろされていた「金のしゃちほこ」にもかじりつくポーズをしていたことがわかりました。
個人的には河村たかしには映画『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターが付けていた拘束マスクを着用させるしかないと思っていますが、今回私が考えたいのは以下の点です。
本人はあの行為が「当然」で「ウケる」と思っていたに違いないこと。あれこそが河村たかしだった。
オフィシャルサイトを探したら「気さくな72歳」というキャッチコピーが出てきた。今回、河村本人はいつもの「気さく」を出しただけなのだろう。何で非難されているかわからないはずだ。今までこれで選挙を勝ってきた自負があるだろうから。
「気さく」は政策や主張にも反映してきた。こちらも重要なポイントです。
「既得権益を打破」という便利な言葉
河村たかしの主張はひとことで言うと「既得権益を打破」。この言葉は便利です。役所や市議会を「既得権益」と設定すれば、あら不思議、言った瞬間からその人は庶民派となるからだ。気さくな人になる。これは敵を作って煽る政治手法でもありますが、小池百合子が初めて都知事選に出馬したときもこの手法でした。河村たかしが応援に駆けつけていたのも納得です。
「既得権益を打破」は菅義偉首相も掲げている。首相就任早々に携帯電話の値下げを訴えた。しみじみしてしまうのは政治家が既得権益打破と叫び続けた結果、「損得」の話しかしなくなったのである。しかし河村たかしは照れずに「損得」の話を言ってきた。ウケるからだ。気さくはポピュリズムと相性がいい。
では「気さく」の成果は出たのか?
《市民税5%減税などを実現するも「何をやったか考えても、特にないのがこの12年」と市議からは容赦ない批判もあがる。》(2020年12月17日・朝日新聞デジタル)
さらに次に、気さくな政治家の裏に潜む怖さに注目したい。
ベラルーシの大統領との共通点
実は金メダル事件の直前に私は河村たかしのことを考えていた。というのも東京五輪でベラルーシの陸上選手が亡命した事件があった。あの件でベラルーシのルカシェンコ大統領のことを調べたら、大統領は五輪チームに対し「ハングリー精神が足りない」などと先月に不満を表明していたのだ。五輪を国威発揚に利用したかったのだろうが選手はどんな気分だったか。
ルカシェンコ大統領に関しては「強権」とか「弾圧」とかも出てくるが、一方でこんな面もあった。
《親しみやすさをアピールし、支持者から「バーチカ」(おやじ)と呼ばれるのを好むルカシェンコ大統領の演説は予測のつかない発言が売りだ。》(2021年5月9日・朝日新聞デジタル)
なんか河村たかしを思い出しませんか?
支持者に「おやじ」と呼ばれるのを好むルカシェンコ大統領と、「気さくな72歳」を訴える河村たかし。両者共通して打ち出すのは親しみやすさ。
ここで気になったのは「おやじ」というキーワードです。
私は権力を持つ年長の人を「おやじ」と呼んでうっとり語る政治家やプロ野球選手は要注意だと昔から言っています。「半径10メートル以内」の内輪の関係性を公にひけらかす意識が見えるからです。自分もこんなに権力者に近いんだという。
ましてや自分のことを「おやじ」と呼ばせる権力者にはもっと警戒したい。そこに漂うのはマフィアのボスみたいな、身内にはやさしいがひとたび敵となった相手にはえげつない態度も見えるからだ。
河村たかしの「かじりっぷり」「逃げっぷり」
河村たかしの「気さく」の裏にもそんな気配が漂う。あのおじさんがかじったのは金メダルだけではない。愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を河村は支援した。しかし署名の8割が無効とされると「僕も被害者」と語り、すぐに運動から距離を置いた。このかじりっぷり。逃げっぷり。
今回の金メダルについて「(かじった)跡は付いとらんと思う」と言っていたが、リコール署名偽造の件でかじった「跡」のほうも気になる。大儀としては税金の無駄使いを言っていたが、そんなキレイごとではなかったことはハッキリと跡がついている。ゴチャゴチャ言うなら選挙だという「気さく」で獲得した力の過信も透けて見える。
さらに権力者の気さくの恐ろしさをあげよう。
表敬訪問では、河村市長は選手に対して「旦那いらないか」「恋愛禁止か」などの質問もしていたのだ(FNNニュース)。セクハラ・パワハラとしか思えないものを平気でぶつけるのも「気さく」に含まれてしまうのである。しかも権力者だからゆるされ放題で、半径10メートル以内の部下などは笑って見るしかないのだろう。気さくは恐ろしい。
己の力を見せつけるためにかじりたがる権力者は河村たかしだけではない。五輪つながりで言うと森喜朗はずーっと松井秀喜をかじってきた。
森は開会式前日に地元の北國新聞に『開会式に松井氏登場 長嶋、王氏と共演か 森組織委前会長が明かす』(7月22日)とリーク。
松井氏は派手なことを嫌う謙虚な性格なので一度は辞退したが、師匠・長嶋茂雄のために出ると書かれていた。そこまで慎重だった松井の気持ちを無視して「これは俺案件」と見せつける森喜朗。
そういえば森喜朗の“売り”も…
先日はアメリカのニュースサイト「デイリー・ビースト」が、
『森喜朗元会長は、大坂なおみ選手ではなく、松井秀喜を聖火リレーの最終走者にしたかった』
と報じた。
ここでも名前を出されてしまう松井秀喜。同郷という関係性で森喜朗が松井の後援会名誉会長を務めていたことは知っている。でも今でも森喜朗にかじり続けられる松井秀喜が不憫で仕方ない。その政治利用とマウント行為には辟易する。
そういえば森喜朗の売りも半径10メートル以内での「気さく」だったような。
(プチ鹿島)