山梨県の長崎幸太郎知事は18日、県内の全飲食店に対し20日から、酒類の終日提供停止を求めると明らかにした。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う「まん延防止等重点措置」の適用を受けた対応だが、県ではこれまで、感染対策を講じた施設を認証する「山梨モデル」を掲げ、飲食店での酒類提供を継続してきた。今回も政府に対し、酒類提供停止は「路上飲みなどむしろ危険」(長崎知事)と主張したが、政府方針に押し切られる形となった。【梅田啓祐、田中綾乃】
「電話を通じてかなり激しいやりとりを交わしました」。18日の記者会見で長崎知事は、西村康稔経済再生担当相と直接、酒類の提供を巡って協議したことを明かした。長崎知事は「山梨県ですでに認証施設においては十分な対策がとられている。酒類の提供停止は不必要だ」と主張。東京などで路上での飲酒などが広がっていることを念頭に「完全に禁止すると、例えば路上飲みなどむしろ危険な状態を招いている。であればむしろ管理された店舗で、秩序をもって飲酒をしていただく方が効果が高い」と主張した。しかし西村氏は「措置の適用スタート時点においては全国一律の対応をぜひお願いしたい。我が国において感染防止対策に最終責任を持つ政府としての判断である」と譲らなかった。長崎知事は「足並みをそろえることもこの局面においては重要」と判断し、提供停止を受け入れた。
デルタ株拡大で山梨でも感染急増
長崎知事が酒類提供にこだわったのは、2020年6月から対策を講じた飲食店や宿泊施設などを県が認証する「グリーン・ゾーン認証」(山梨モデル)を導入し、感染拡大を抑えながら飲食店などの営業を続ける独自策で経済との両立を図ってきたからだ。全国で飲食店などでの感染が相次ぐ中、県内の認証施設での感染は抑えられ、長崎知事は21年3月、県民に「花見や歓送迎会をぜひやって」と呼びかけた。首都圏で感染者が増える中、甲府市内の飲食店には県外客から「お酒は飲めるのか」との問い合わせもかかってくるようになった。
ところがデルタ株が流行するようになり、山梨でも感染が急拡大。1日当たりに発表された感染者数は8月4日に49人で過去最多(当時)となると、その後も連日のように最多を更新した。状況が悪化する中、長崎知事は66人の感染を発表した12日に、臨時記者会見を開き、8月22日までを期限として飲食店や遊興施設などに休業を求める臨時特別協力を要請した。
一方、認証施設については、酒類の提供も含め午後8時までの時短営業を認め、協力金を支給する方針を提示。まん延防止措置の適用申請の時期を探りつつ、当面は「山梨モデル」の枠組みを生かして感染拡大防止と経済の両立を維持する考えだった。しかし、その後も感染状況が高止まりし、政府は16日に山梨へのまん延防止措置の適用方針を決定。県幹部は「県独自に強力な要請を出したばかりだったのに……」と困惑した。
病床逼迫、提供再開は見通せず
「酒類の提供禁止」を了承した長崎知事だが、甲府市内の飲食店からは「お酒なしで食事だけだと、客はすぐに帰ってしまう。そうなると営業は厳しい」との声も上がる。市中心部の繁華街では、休業を決めてシャッターを下ろす店舗が目立つ。
長崎知事は18日の西村氏との電話協議後、「感染状況が一段落ついて下落傾向が見えたところで速やかに、まず午後8時までの飲酒を可能とするこれまでのものを回復していくことを再度大臣と協議したい」と提供再開に意欲を示した。ただ18日発表の感染者数も過去最多の93人。病床使用率は69・2%で、このままのペースで推移すれば23日には患者が入院できない事態も生じるという。長崎知事も酒類の提供停止を了承した理由として「本県において連日過去最高の感染者を出しているということで、厳しい措置が必要ということも背景にある」と説明。ワクチン接種の加速化や感染者の抑制、病床確保に力を注ぐことになり、酒類の提供再開は依然として不透明な状況だ。