明かりはハッキリと見え始めている。
25日の会見での菅首相の言葉です。自分の任期(自民党総裁)がもう少しで終わることを言ってる自虐ネタかと思いきや、そうではなかった。
『首相「明かりはハッキリ見え始めた」…ワクチンはデルタ株にも有効と強調』(読売新聞オンライン8月25日)
という意味でした。一方で読売新聞にはこんな記事も。
『高齢者感染 再び増加 デルタ株影響か ワクチン接種8割でも』(読売新聞8月29日)
明かりが見えるどころか予断を許さない状況であることがわかる。
ハッキリと見えてきたのは自民党総裁選の日程です。9月29日に決まった。コロナ禍で権力闘争? とも思うが、自公政権が続く場合「次のコロナ対応をする人を決める選挙」なら注目せざるを得なくなる。
総裁選は「おいしい興行」
常々思うのですが、総裁選は自民党のPRイベントと考えたほうがいい。あの「興行」をやることでメディアは時間をさいてくれ、候補者たちは各テレビ局をまわる。これ以上ない宣伝機会となる。
総裁選がいかにおいしい興行かと言えば、小泉純一郎が「自民党をぶっ壊す」と叫んで喝さいを浴びた当時を思い出してほしい。あのあと自民党はぶっ壊れるどころか安泰となった。自民党の興行にまんまと夢中にさせられたことを熱狂のあとに少なくない人々が気づいた。議論が盛り上がり、対決ムードとなったことでガス抜きができたのだ。やってる感を出せた。
しかし近年はそんなおいしい興行を自民党が使いこなしていないのが気になる。
今回は3年ぶりにフルスペック(党員・党友投票も含める)で実施するというが、では3年前の総裁選はどうだったか。当時の記事を振り返ろう(2018年8月22日)。
『論戦したい石破氏 敬遠したい首相側』(朝日新聞)
『石破氏 焦がれる直接討論』(読売新聞)
『首相、短期戦で石破氏封じ』(毎日新聞)
同じ日に3紙が同じ論点で記事を書いていた。それほど当時の安倍晋三総裁は対立候補の石破茂にモリカケ問題をツッコまれるのが嫌だったのだ。議論を避けた。
石破氏が「正直で公正、謙虚で丁寧な政治をつくる」と主張したことに対し党内からは個人攻撃はするなという「苦言」も飛んだ。以前のような狡猾さが自民党にあったら石破茂をとことん利用しただろう。安倍と並ばせて批判をさせただろう。国民の不満を緩和させる手に出たはず。しかし封じた。その結果モリカケはくすぶり続け「桜」まで出た。
安倍前首相が「岸田さんはどうするの?」
その教訓でいうと今回は菅氏のコロナ対応をどれだけ身内がツッコむことができるか。それが見どころでもある。議論を避けるようなら国民の不満はそのまま蓄積される。菅氏は総裁選を勝ったあと間を置かずに衆議院選挙をするという戦略があるらしいですが、それは危険な大ボケの匂いしかしない。総裁選のあとに一億総ツッコミの予感。
さて総裁選に出馬表明している中で注目されているのは現時点では岸田文雄氏です。岸田氏と言えばフニャフニャ感が売り(失礼)。2018年総裁選でポスト安倍を狙った岸田氏のエピソードが泣けてくる。安倍・岸田の会食の様子を読売が書いていた。
《これまで遠回しに腹を探ってきた安倍だったが、この日は単刀直入に切り出した。「岸田さんはどうするの?」。岸田は「どうしましょうか」といつものように煮え切らず、安倍支持を明言しなかった。》(読売新聞2018年7月26日)
いつものように煮え切らず……。結局出馬はしなかった。昨年コロナ対応が始まってからの岸田文雄は誰もつけなくなったアベノマスクを最後までいじらしく着けていた。ポスト安倍の禅譲をおとなしく期待していたのだ。
そんなユルい相手ならいけると思ったのか、安倍が辞意表明すると菅・二階のたたき上げ連盟がすぐさま手を挙げた。少し言動を追っていれば菅の野心なんて素人にも丸見えだったのに岸田派(宏池会)内では「菅氏の動きは意外だった」との声が漏れたという(毎日新聞2020年8月31日)。宏池会ごとのんきだった。
さすがに今までのやり方だと無理だと思ったか、今回の岸田は仕掛けている。
『二階幹事長の再任否定』(日本経済新聞8月27日)
『コロナ対応 首相と一線』(東京新聞8月27日)
出馬会見では、たぶん良くなるだろうではコロナに打ち勝つことはできないと語った。
《暗に首相を批判した。念頭にあるのが、感染状況を巡って楽観的な発言を連発する首相の姿勢なのは間違いない。》(東京新聞・同)
岸田文雄が早々に出馬表明した理由
『岸田ビジョン』(講談社)を読むと、昨夏の時点で「『聞く力』を持つリーダー」とか「分断から協調へ」と書いているので菅だけでなく安倍も批判的にみていたことがわかる。アベノミクスに懐疑的な記述もある。ところが現実の岸田はというと……。
『自民・岸田政調会長、皇統と憲法で安倍保守路線継承へ 派閥の理解得られるか』(産経ニュース8月25日)
安倍頼みなのである。フニャフニャの真骨頂。『岸田氏、安倍・麻生両氏に秋波』(日経新聞8月27日)とも。これでは万一首相になれても「第三次安倍政権」と言われるだけではないでしょうか。予想しておきます。
ただ、フニャフニャしていた岸田氏が今回は早々に手を挙げた点は気になる。それはなぜか? こんな事情もあるようだ。
《岸田派座長で参院議員だった林芳正・元文部科学相が、将来の総裁選出馬を視野に、次期衆院選に山口3区からくら替え出馬することも、岸田氏の判断に影響したようだ。》(読売新聞8月26日)
ここらで勝負しないと派閥の後輩に総裁候補として逆転されてしまうという危機感。
安倍晋三、ハヤシライスは食べない説
調べてみると林芳正は今後の自民党のキーマンでもあるようだ。くら替えする山口3区は二階派の河村建夫が現職。なので二階のトシちゃんは「売られたケンカは買う」と激おこ。さらに山口では「林家」と「安倍家」は中選挙区時代から長年のライバル関係にある。
《安倍陣営ではかねて「カレーライスは食べてもハヤシライスは食べるな」「ゴルフで森に打ち込むのはいいが、林には絶対打ち込むな」と対抗意識をむき出しにしてきた。》(信濃毎日新聞7月11日)
すばらしすぎる格言。安倍晋三、ハヤシライスは食べない説。
現在の小選挙区では安倍家とは一応すみわけができるが《総理総裁を目指す林氏と首相退陣後もキングメーカーとしての野望をぎらつかせる安倍氏。両家の対立が再燃するかもしれない》とも(信濃毎日新聞・同)。
安倍と二階を敵に回しても野心を隠さない林芳正。フニャフニャ岸田さん、このままだと食われちゃいそう。その前に国民の注目を集めるコロナ対策を打ち出せるか、地方と若手の票を自分が食えるか。しばらく注目です。
(プチ鹿島)