宿泊業、飲食店「明るい兆しだけど怖さも」 制限緩和に期待と不安

新型コロナウイルス対策として出されている緊急事態宣言の期間が、19都道府県で9月30日まで延長されることになった。その一方で、政府は今後、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出ている地域でも段階的に行動制限を緩和する方針も示している。感染拡大以降、予想もしなかった厳しい状況に直面している宿泊業や飲食業。関係者は今、どう受け止めているのか。【井口慎太郎、韓光勲、木下翔太郎】
国内観光客のみならず、外国人にも人気の東京・浅草。2018年10月、浅草寺にも近いにぎやかな一角にホテル「ザ・ビー浅草」(166室)がオープンした。運営会社の担当者は「インバウンド(訪日外国人客)需要が見込めた」と振り返る。しかし、コロナの感染拡大で状況は一変。オープンからわずか1年半後の昨年4月末、閉館した。担当者は「感染拡大はすぐに収まらない。閉館が最善との判断に至った」と言う。
浅草を含む台東区では、宿泊施設の開業ラッシュが18年ごろから始まった。400台だった同区内の宿泊施設の数は近年、700を超えた。東京23区でも群を抜いていた。
新型コロナはその勢いをそいだ。台東区によると、18年に5583万人(うち外国人953万人)を記録した同区への観光客数は、昨年は1631万人(同145万人)に。年間宿泊者数も824万人(同206万人)から223万人(同27万人)まで減った。開業ラッシュから一転、20年度中の宿泊施設の廃止届は、07年度以降で最多の64件に上った。
激減した旅行客を取り合うホテル間の価格競争は消耗戦の様相を呈している。浅草のあるホテルは、1泊の宿泊料を3000円に引き下げている。これは感染拡大前の3割程度だ。今年6月ごろから周辺の同業者が一斉に値下げしたといい、やむを得ず価格帯を合わせた。そこまでしても6割しか部屋が埋まらない。支配人は「一度値下げすると、元の価格に戻した時に客が戻るか心配だ。『安いホテル』というイメージがついてしまうのが怖い」と懸念する。
政府は今後、ワクチン接種などを条件に都道府県を越えた移動や飲食店での酒提供を認める方針だ。支配人は期待感を示す一方で、気になることもある。浅草を訪れる観光客の柱は高齢者といい、「高齢者は感染を恐れ、緩和されたとしてもすぐに動き出すとは思えない」と話す。
関西の奥座敷として知られる有馬温泉(神戸市)もなかなか客足が戻らない。温泉街の人通りはまばらで、休業する飲食店や土産物店も目立つ。
旅館の従業員や芸妓(げいぎ)ら1900人は8月半ばまでに2回目のワクチン接種を終えており、客を迎える準備はできている。有馬温泉旅館協同組合の専務理事、下浦伸一さん(41)が経営する旅館「竹取亭円山」では貸し切り風呂を設け、食事は個室で提供するといったコロナ対策も講じている。しかし、夏休みの宿泊客はコロナ禍前の19年の同時期に比べて7割減った。下浦さんは行動制限の緩和方針について「いつまでも制限ばかりでは商売も気持ちも持たない。緩和の議論を積極的に進めてほしい」と語る。
一方、飲食店もギリギリの線で踏ん張っている。
東京・神田の居酒屋「にほんしゅ ほたる」の店長、山畑晃一さん(48)は行動制限の緩和方針について「少しは明るい兆しだけれど、怖さもある」。店は酒類提供停止や営業時間短縮の要請に応じ続けてきた。ランチのみの営業では、売り上げは例年の20%弱だ。こうした中、行動制限の緩和で、少しは以前の状態に近づくかもしれない。ただし「一気に緩んでしまい、年末年始に規制がかかってしまうような事態になりはしないか」と思うと、不安が残るという。