「親なきあと」子どもは 「障害者家族の終活」を当事者が支援

自分が寝たきりになったり亡くなったりしたら、障害のある我が子は誰を頼ればいいのか――。障害がある子を抱える親の深い悩みを少しでも解消したいと、大阪府八尾市在住の終活カウンセラー、藤井奈緒さん(48)は「障害者家族の終活」をテーマに、相談対応やセミナーでの講演を展開している。藤井さんも障害のある娘がいる当事者。終活の要点として「家族だけで抱え込まず、他人の世話になれるようにしておくことや多くの頼れる人を作ることが大切」と語る。
藤井さんは現在、一般社団法人「親なきあと」相談室関西ネットワーク(大阪市)の代表理事。「親なきあと」は親が亡くなった後という意味のみならず、親が病気になるなどして子どもの世話ができなくなった場合も含めている。同法人は障害者家族は障害のある子がいない場合の終活に加えてさらなる準備が必要と考え、相談に乗っている。
今年7月、障害者専門の保険会社「ぜんち共済」(東京都千代田区)主催のオンライン講演を開催し、1500人以上が視聴した。藤井さんは講演で「障害のある子どもがいる親から、『この子を置いて死ねない。この子よりも一日でも長く生きるんだ』という言葉を何度も聞く」と語り、もちろん自身もそういう気持ちになると力を込めた。子どもに対する心配は尽きることはないとした上で、「それでも心配はひとまず横に置き、今できることは何なのかを知り、着実に行っていくことが大切」と終活の重要性を訴えた。
今月4日には、新型コロナウイルス対策を徹底して東大阪市で少人数の講演を催し、障害のある子にお金を残す際のポイントなどを紹介した。藤井さんは「財産をどれだけ残すかよりも、どう残すかが大事」と話し、相続手続きを滞りなく進めるには遺言が重要という点や、お金を適切に使ってくれる人は誰かを考え、子どもが希望するであろう使途を書き残すことも必要と説明した。

藤井さんは20年ほど前、両親を相次いで亡くした。両親は終活をしていなかったため、相続などの手続きに手間取り「親との最後の別れの時間に十分に向き合うことができなかった」という。この際、「親が終活をしていれば、もう少し余裕が持てたのかも」と感じた。これらの経験から葬祭業に興味を持ち、2011年に葬儀会社に就職。葬儀を行う遺族を見て終活を考える機会も得た。
一方、結婚して03年に生まれた長女凜(りん)さん(18)は遺伝子異常が原因とされる難病「ソトス症候群」で、重い知的障害がある。食事やトイレ、入浴に介助が必要で、外出も同行者が不可欠。次女の怜(さと)さん(12)は障害がなく、「もし私と夫に何かあったら、次女に長女の世話をさせたり、負担を負わせたりするのでは」と考えたとき「次女にも自分の好きに生きてほしい」と思った。
そうした中、自身の体験や葬儀会社での経験から、終活カウンセラーになろうと思った。勉強を進めるうちに、障害者家族こそ一層の終活が必要だと感じ、当事者にアドバイスできるカウンセラーになろうと決意。8年勤めた葬儀会社を退社後の19年、自分と同様に障害のある娘がいる親との共同代表で同法人を立ち上げた。
相談では、藤井さんと同様に障害のある子に障害のないきょうだいがいる場合の対応を尋ねられることもある。そんな時、藤井さんは「(障害のない)きょうだいが世話をしたいか選択できることが大切。成長して考えが変わる場合もあるので、選び直せるようにしてほしい」と話している。
凜さんが幼い頃、藤井さんは障害がある子の育て方について講演した医師から「他人の世話になれる子に育てなさい」と助言を受けた。当初はそのような発想はなく戸惑ったが、自分にもしものことがあった時に娘が家族以外の第三者に頼ることも想定しておかなければと納得した。以後は、凜さんを保育園や福祉施設などさまざまな場所に積極的に預けるようにした。今は「親が子どもを抱え込みすぎないことが大事」と考えている。
藤井さんは、終活では「親しかできない備えをすることが必要」と話す。支援してくれる人に、障害がある子の日常生活や健康面での細かい配慮などを把握しておいてもらうことが重要だという。このため、凜さんの特性などを書き留めた「サポートブック」や、自分に何かあった場合に凜さんが適切な支援を受けるための「親心の記録」、通常の終活で一般的に「エンディングノート」と呼ばれる内容の書類を1冊のバインダーにまとめてある。
藤井さんは、書類をまとめる際にいつでも差し替えたり、必要な部分だけを取り外して他人に見せたりすることができるようにバインダーでの管理を勧めている。また、年1回は書類の見直しをするように呼びかけ、「(バインダーは)使いやすいように自己流にアレンジしてほしい」と話す。他にも「親なきあと」に備えた情報収集や専門家への相談が大切だという。
藤井さんは「相談してくれた人が、次は不安に感じている別の人の相談に乗るような関係の輪を作ってほしい。障害のある子を抱える親が、独りで悩んで孤立する状況がなくなれば」と願っている。同法人への相談はホームページ(https://oyanakinet.com/)へ。【佐藤英里奈】