サルが北九州市若松区の住宅地に度々出没し、8月以降、かまれるなどしてけがをした人が18人に上っている。市によると体は小さめという目撃情報が多く、同一のサルの可能性もある。東京でも連日のようにサルが目撃されるなど近年、都市部に野生動物が現れて騒ぎになることが多いが、若松区のように人的被害が続くケースは珍しく、動物園関係者らは首をかしげる。若松区のサルはなぜ人を襲うのだろうか。
9月9日午後2時ごろ、若松区畑谷町の女性(78)が洗濯物を取り込もうと庭先に出たところ、近くに座っていたサルと目が合った。「なんしよん(何をしているの)」。思わず声をかけると飛びかかってきて、尻もちをついた女性の足首にかみついた。更に髪を引っ張るなど暴れ出したため、履いていたサンダルで頭をたたくと逃げていった。「外出する時はサルがいないか警戒するようになった。小学生も被害に遭っており、早く捕まえてほしい」と心配する。
8月7日朝に農作業中の30代女性がかまれたのを皮切りに、若松区では9月10日までに9歳~80代の男女計18人が路上や庭先で被害に遭った。目が合うなどした後、背後から足や尻をかまれたケースが多い。区役所は広報車の巡回やポスターで注意喚起している。
北九州市鳥獣被害対策課によると、出没しているのは群れからはぐれた「ハナレザル」とみられる。被害は若松区の中心付近で石峰山(302メートル)など200~300メートル級の山が連なる山地の周りに集中。「体は小さめ」と目撃した人たちの説明が一致していることからも同一の若いサルの可能性がある。区内の男性(74)が7月12日に自宅前で撮影したサルもそれほど大きくはなかった。
サルが群れからはぐれること自体は珍しくなく、サルの目撃情報は各地で相次いでいる。しかし、これほど人が襲われるのは異常事態だ。「本来、人には近づかないはずなのに」。到津(いとうづ)の森公園(北九州市小倉北区)の高橋能理子・飼育展示係長はいぶかる。「同一のサルだとすれば、人から餌をもらったりして『近づけばもらえる』と学習してしまった可能性はある」
高崎山自然動物園(大分市)のガイド、藤田忠盛さん(51)も「サルは人間に興味がないので、通常は近づいてこない」と話す。しかし食べ物を与えられたり、人が持っていた食べ物を奪うことに成功したりすれば「人を襲えば食べ物が手に入る」と学習するかもしれないという。その上で「目が合うのはサルにとって威嚇行動なので『けんかを売られた』と考えて向かってくることもある。サルに遭ったら刺激せずゆっくり遠ざかって」と注意を呼びかける。
北九州市はわなで捕獲しようと試みているが、神出鬼没でどこに仕掛けるかが難しい。目撃情報を分析して近く、若松区の自然公園に設置する予定だ。藤田さんは「畑などに食べ物があると覚えたら街中に居座る可能性もある」と警鐘を鳴らす。市の関係者らは一日も早く群れに戻ってくれるよう願うばかりだ。【青木絵美、成松秋穂】