国民不在の自民党総裁選が終わり、約1か月後には総選挙が行なわれる。今度は国民が主役となり、「1票」を行使して政治に物言う番だ。もしも 総選挙で投票したい候補がいないなら、有権者が「ためにならない」と考える政治家を懲らしめる方法がある。それが落選運動だ。一言で言えば、国民が候補者の素行や過去の言動をチェックしてその事実を他の有権者に広く知らせ、当選させないようにする。やり方は、ネットやSNSでもいい。
長老政治家たちの自民党支配は、彼らが率いる派閥の「数の力」に支えられている。総裁選の決選投票では最大派閥・細田派を牛耳る安倍晋三氏と、第2派閥・麻生派を率いる麻生太郎氏が岸田文雄氏氏を圧勝させ、キングメーカーとしての力を見せつけた。「落選運動」ではそうした派閥のボスに従う子分たちの行状もしっかりチェックしたい。彼らこそが、歪んだ派閥力学を作り上げている張本人とも言える。
とくに前回総選挙(2017年)で次点との得票差が小さい選挙区の議員に対しては、落選運動の「怒りの1票」が効果的だ。
全国には、そんな「落選させやすい小選挙区」が多くある。本誌・週刊ポストは前回総選挙のデータから、自民党議員が当選した選挙区で、次点との得票差が小さい順に60の選挙区をリストアップした(別掲)。
自分の選挙区の議員・候補が自民党のどの派閥に所属し、誰の子分で、どんな人物かを知ることが落選運動のカギになる。
最も落選させやすい大臣経験者
菅内閣の閣僚の中で最も僅差だったのが香川1区の平井卓也・前デジタル相(岸田派)だ。党内きってのIT通として知られ、菅政権の看板公約だったデジタル庁を発足(9月1日)させたが、とんでもない不祥事が表面化した。
平井氏はIT担当政務官時代に株取引自粛の大臣等規範に違反して親密なIT企業の未公開株を取得し、国会議員の「資産等報告書」にも報告せずに保有。昨年売却して多額の利益を得ていた疑惑が報じられ、事実を認めて陳謝し、批判を浴びた。政策で利益を得た平井氏は、選挙区事情からも「最も落選させやすい大臣」といえそうだ。
その次に僅差なのが三重1区の田村憲久・前厚労相(石破派)。ワクチン供給不足や職場接種の一時申請停止など数々の混乱を招いた”コロナ戦犯大臣”の1人で、有権者から厳しい審判を突きつけられることは避けられそうにない。
“不倫報道”で差し替え
リストの選挙区にはすでに候補者の差し替えが決まったところもある。「京都6区」の安藤裕・元復興政務官(3回生、麻生派)はコロナ対策として「3年間消費税ゼロ」を提唱していたが、地元タレントとの不倫疑惑が報じられると(本人は報道を否定)、自民党京都府連は「支援できない」と通告、公認候補を元代議士の清水鴻一郎氏に交代させた。
さらに「大分1区」では、国会参考人として受動喫煙について意見陳述していた肺がん患者に対し、「いい加減にしろ」とヤジを飛ばして厳重注意を受けた現職の穴見陽一氏(3回生、細田派)が引退を決め、後任候補には、新人で甘利明氏の“番記者”だったという触れ込みの高橋舞子氏が決まった。有力政治家はこうして子分を増やしていく。
「埼玉7区」では、石破派の現職・神山佐市氏(3回生)と二階派の新人・中野英幸氏(県議)が公認を争い、二階氏の裁定で中野氏が選挙区、神山氏は比例代表に回ることになった。派閥の都合で候補を差し替える有権者無視のやり方だ。
※週刊ポスト2021年10月15・22日号