軽井沢スキーバス事故 上司の責任、問えるか 21日、地裁初公判

2016年1月、軽井沢町で東京からのスキーツアーバスが崖下に転落し、大学生ら15人が死亡、26人が重軽傷を負った事故で、業務上過失致死傷罪で起訴されたバス運行会社「イーエスピー」(東京都羽村市)社長の高橋美作被告(60)と運行管理者だった荒井強被告(53)の初公判が21日、長野地裁で開かれる。死亡した運転手(当時65歳)の上司だった両被告に刑事責任を問えるのか。有罪立証に向けて想定されるハードルについて有識者に聞いた。
起訴状によると、荒井被告は運転手から大型バスの運転に不安があると聞いていながら、実技試験や訓練をせず、スキーツアーバスの運転をさせていた。高橋被告も荒井被告に対して運転手の運転技能を確認するよう指導監督をしなかった。両被告の過失により、運転手がギアやブレーキの操作を的確にできず、死傷事故が起きたとされる。
元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士と刑事過失論に詳しい大塚裕史・神戸大名誉教授はともに、起訴状では事故原因を「運転手の技量不足」だと指摘している点が、有罪立証に向けた最大のハードルになるとみる。
高井弁護士は「事故前に数回大型バスを運転できていたのなら、運転技能の不足が事故原因とは言い切れないのではないか。前方不注視や脇見など運転手個人の過失が主たる原因の場合は、管理者である被告の過失を問うことは難しくなる」と指摘。「過失論をより精緻にするためにも公判では審理を尽くすべきだ。再発防止に向けて、正確な事故原因を明らかにすることが必要だ」と話す。
大塚名誉教授も「運転手は約5年間の大型バスの運転のブランクがあったが、初心者ではない。運転技量の不足以外の事故原因の可能性があれば、『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則により、被告を有罪にすることは難しい」と指摘。立証に向けて山道での運転経験の乏しさなどの証拠を積み重ねる必要があるとした。
一方、甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は高橋被告の刑事責任について、「大規模な運行会社であればトップの過失責任を問うことは困難だが、イ社では社長自ら業容拡大の先頭に立っていた。運転手の数も少なく、技能や運用上の注意点も把握が可能だった」とコメントした。有罪立証に必要な事故の予見や結果回避のための指導・指示も可能だったと考えられ、「こうした事情を証拠によって裏付けることで、過失責任を立証することは可能ではないか」と見解を示した。
事故から5年以上が経過して迎える初公判。国土交通省の委託調査などで事故原因は一定程度分かってきたが、管理体制の実態を知る両被告は多くを語っていない。公判を前に取材に応じた遺族会事務局の酒井宏幸弁護士は「バス事故で無条件に運行管理者が責任を問われる状況は望んでいない。通常の会社とは違う粗末な安全管理によって事故が起きたということが強調され、2人が責任を取る形になるのが一番だ」と話した。公判を通じた真相解明が望まれる。【皆川真仁】
軽井沢スキーツアーバス事故
2016年1月15日未明、長野県軽井沢町の国道18号碓氷バイパスで、東京からのスキーツアーバスが道路脇の崖下に転落し、大学生13人と運転手2人の計15人が死亡、26人が重軽傷を負った。国土交通省の要請による事故調査委員会の報告書は、死亡した運転手は大型バスの運転に約5年のブランクがあり、下り坂で操作を誤ったと判断。またバス運行会社「イーエスピー」(東京都)が法令で定められた適性診断を受診させていないなど事業運営の問題点を指摘した。遺族会「1・15サクラソウの会」は高橋美作社長らの起訴を求める署名を長野地検に提出。県警や地検の捜査は異例の長期に及び、地検は1月、高橋社長ら2人を業務上過失致死傷罪で在宅起訴した。一方、事故では価格競争のため安全面が軽視されている長距離バス業界の問題点も浮き彫りになり、事業者の規制を強化する道路運送法改正につながった。遺族会はJR福知山線脱線事故(2005年)の遺族などと連携し、大規模事故で経営者の刑事責任を問う「組織罰」の創設に向けた活動を続けている。