岡山県津山市で2004年9月、小学3年の女児(当時9歳)を殺害したとして殺人などの罪に問われた勝田州彦(くにひこ)被告(42)の裁判員裁判が28日、岡山地裁(倉成章裁判長)で開かれた。弁護側は無罪を主張しており、捜査段階での「自白」の信用性が争点。検察側は取り調べ時の映像を証拠請求したが地裁は保留しており、法廷では取り調べのやりとりを書き起こした書面が読み上げられた。
関係者によると、裁判員の判断が映像の印象に左右されるのを地裁が懸念したとみられる。映像を再生せず、書面にして読み上げるのは極めて異例だ。
地裁100号法廷。午前10時に始まった公判で、検察官らは取調官役と被告役に分かれ、映像を再現した書面を読み上げた。
■18年4月30日
取調官「女の子を見てどう思ったのですか」
被告「殴りたいな、首を絞めたいなって思った」
取調官「何で絞めたのですか、ロープとか」
被告「手で絞めた、両手で絞めた」
■同年6月2日
取調官「勝田が殺したということか」
被告「僕が刺しました」
取調官「なんで」
被告「怖くなって気が付いたら刺しました」
起訴状によると、勝田被告は04年9月3日午後、津山市内の女児宅にわいせつ目的で侵入。女児の首を絞めた際に抵抗され、刃物で胸や腹を刺して殺害したとされる。
検察側によると、勝田被告は別の事件で服役中の17年11月、警察官の取り調べに「女児の首を絞めたことがある」などと供述。翌年5月に逮捕されていったん容疑を認めたが、その後は「(自白は)でたらめだった」と否認した。現場の遺留物から勝田被告と一致するDNA型などは検出されず、凶器の刃物も見つかっていない。
公判で検察側は、勝田被告が母宛ての手紙に「女の子の首を絞めた」と記したことや、現場の間取りなどを自ら描いたことから「自白は信用できる」と主張。一方、弁護側は「(自白が)不自然なまでに詳細で、後から得られた情報が影響し、客観的状況と一致しない部分も多い」などと反論している。【岩本一希、堤浩一郎】
映像のインパクト、裁判員判断に影響も
取り調べの録音・録画(可視化)は不適切な取り調べによる冤罪(えんざい)を防ぐために導入されたが、近年では検察側が公判で有罪立証する「武器」として積極活用している。映像のインパクトに裁判員の判断が引きずられるとの懸念もあり、過去にも取り扱いが問題になっている。
検察は2009年の裁判員制度開始を前に、06年から録音・録画を試行。19年の改正刑事訴訟法施行で、裁判員裁判対象事件などで全過程の録音・録画が義務づけられた。密室の取り調べで暴行や威迫を受けず、自らの意思で供述したという「自白の任意性」を立証するためで、自白調書の補助証拠という位置づけだった。
しかし、最高検は15年、録音・録画した映像を実質的な証拠として活用するよう各地の検察庁に通達。物証の少ない事件で証拠請求するケースが増えている。
05年に起きた栃木県今市市(現日光市)の小1女児殺害事件で、殺人罪などに問われた男性(39)の裁判員裁判。捜査段階で殺害を自白したが、公判では無罪を主張した。
1審・宇都宮地裁では検察側が提出した取り調べ映像を約7時間再生。16年4月の判決は「(男性が)殺人のことを聞かれた時の激しく動揺した様子などは不自然」として自白の信用性を認め、無期懲役とした。
これに対し、18年8月の東京高裁判決は無期懲役を維持しつつ、「印象に基づく直感的な判断になる可能性が否定できない」として映像に依拠した1審を批判した。判決は20年3月に確定した。
東京都中野区の老人ホームで17年、入居者を殺害したとして殺人罪に問われた元職員(29)の裁判員裁判でも問題に。逮捕後、自白から否認に転じており、地裁は「直感的で主観的な判断に陥る危険が高い」として映像を証拠採用せず、音声のみが法廷で再生された。【岩本一希】
市民の良識、信頼を
渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 取り調べ映像を証拠から除外すると、裁判員が良識を働かせて自白の信用性を検討するためのさまざまな情報が失われる。市民の良識を信頼し、自白の映像自体を証拠とする運用を確立すべきだ。
「迫真性」あるように見える可能性も
若林宏輔・立命館大准教授(法心理学)の話 映像で見ると自白が「迫真性」を持っているように見えてしまう可能性があり、岡山地裁はこの点を配慮したのではないか。ただ、録音・録画は違法な取り調べがなかったことを立証することが目的なので、書面だけにするのは危険な面もある。