【日本の論点】「日本の防衛力増強」が民主主義を救う 頼りの米が「防衛費増額」要請も岸田首相の危機感は乏しい?

米国から「日本の防衛予算増額」の要請が相次いでいる。
次期駐日大使に指名されたラーム・エマニュエル氏は20日、上院外交委員会の公聴会で、日本の防衛費増額は「同盟に不可欠」だと述べた。
22日には、日経新聞と米戦略国際問題研究所(CSIS)共催のシンポジウムで、リチャード・アーミテージ元米国務副長官と、ジョセフ・ナイ元国防次官補が、日本の防衛費倍増を求めた。
こうしたなか、中国海軍とロシア海軍の艦艇計10隻は17日から23日にかけて、日本海から津軽海峡を通過した後、太平洋を南下し、鹿児島県・佐多岬と種子島の間の大隅海峡を抜けて東シナ海に入った。日本列島をほぼ一周した。今後、中露による「日本への威嚇航行」が常態化する可能性もある。
こうしたなか、与野党党首は24日、NHK番組で論戦を交わした。
自民党は衆院選公約に「GDP(国内総生産)比2%以上も念頭に増額を目指す」と掲げているが、岸田文雄首相は「いきなり次の予算うんぬんというより、まずは議論をしっかり行うところから始めなければならない」と、何とも吹っ切れない回答だった。
これだけの危機が迫っているのに、与野党党首とも危機感が乏しかった。
米国の「日本の防衛費増額」要求は、やむにやまれぬ事情がある。米国だけでは、増強する中国の軍事力を押さえることができないのだ。そのため、日本や英国など民主主義同盟で中国を押さえ込もうとしている。
米国は、日本とオーストラリア、インドとの戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」ではインドを、最近発足した英国とオーストラリアとの新しい安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」では英国を、インド太平洋に巻き込んだ。
10月2、3日、米海軍と海上自衛隊、英海軍、オランダ海軍、カナダ海軍、ニュージーランド海軍は、沖縄南西海空域で共同訓練を実施した。米英の3空母を含む17隻が参加した。
この大規模訓練は、中国とロシアを刺激した。中国の環球時報は19日、前述した中露艦隊の津軽海峡通過について、初めて合同で行った「海上戦略巡航」とし、「域外国と周辺国への厳正な警告だ」と報道した。
ここで、注目すべきは、米国中心の民主主義同盟がどのくらい強固かだ。「台湾有事」が勃発すれば、米国はどの国家を頼りにできるのか。
英国はこの地域に空母を常駐させているわけではなく、地理的にも離れている。オーストラリア軍はそれほど大きくない。インドは有事には中立宣言をするだろう。
結局のところ、米国は日本しか信頼して軍事的に期待できる国家はないのだ。つまり日本の動向次第で、民主主義同盟の強さが決まる。
岸田首相は、日本と世界の「自由」と「民主」「人権」「法の支配」を守り抜くため、米国とともに強い意志を持ち、防衛費を増加させて共同歩調をとらねばならない。日本の責任は重い。
■川上高司(かわかみ・たかし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1955年、熊本県生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)。フレッチャースクール外交政策研究所研究員、中曽根世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官、北陸大学法学部教授などを経て現職。著書・共著に『トランプ後の世界秩序』(東洋経済新報社)、『2021年パワーポリテイクスの時代-日本の外交・安全保障をどう動かすか』(創成社)など。