【日本の論点】衆院選後の岸田政権の「課題」 米軍事同盟に貢献できるか 日印関係さらに強化、インドを民主主義同盟にひっぱり込む

岸田文雄政権のスタート(今月4日)に合わせるように、中国軍は1日から5日までに、戦闘機や爆撃機など延べ150機を台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入させた。米政府関係者からは、中国の台湾侵攻の可能性を指摘する声が相次ぐ。
北朝鮮は日本の衆院選公示日(19日)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射した。中国とロシアの海軍艦艇計10隻は17~23日、日本列島をほぼ一周して航行するなど、わが国への威圧・挑発も続く。
近年まれに見る国家的危機に対し、岸田首相は27日、東京・JR赤羽駅前での応援演説で、「日本の平和、生活を守るためにしっかりとした外交・安全保障を進めなければならない」と訴えた。選挙で安全保障について演説する首相はめったにいない。票につながらないからだ。
岸田首相は、安全保障環境の緊迫化を踏まえて、国家安全保障戦略などの改訂も指示している。
国家安全保障戦略は、第2次安倍政権時代の2013年12月、わが国として初めて策定された。岸田首相は「防衛力の抜本的な強化に取り組む」と意気込み、「敵基地攻撃能力の保有」をはじめ、あらゆる選択肢を検討するという。
衆院選後、岸田首相が直面する課題は、ジョー・バイデン米政権が力を入れる日本と米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」と、米国と英国、オーストラリアとの新たな安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」への関与をどこまで行うかだ。
バイデン政権は発足当初から、クアッドを強化してインドを対中抑止の一員とすることを狙ってきた。インドはこれまで、特定の国と同盟関係を築かず、全方位外交を展開してきた。ロシアから武器を輸入し、中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)にも参加する。インドの立ち位置は極めて微妙といえる。
しかし、中印国境紛争は最近、厳しさを増している。昨年11月には、インド海軍主催で、日米豪が参加する共同訓練「マラバール2020」が実施された。
それでも、太平洋に面する日米豪と、そうではないインドの関心事は必ずしも一致しない。気候変動問題などでは立場も異なる。中国との関係が改善すれば、インドがクアッドから距離を置く恐れもあり、具体的な協力の積み重ねが欠かせない。
ここでの日本の役割は大きく、日印関係をさらに強化してインドを民主主義同盟にひっぱり込むことにある。
オーカスは、英国をインド太平洋にコミットメントさせ、オーストラリアを本格的にテコ入れする軍事同盟となる。米国が技術供与するオーストラリアの原子力潜水艦は、海上自衛隊と米海軍の潜水艦と役割分担し、「台湾有事」を想定した共同作戦行動も重要となろう。
このように、米国の新たな同盟戦略がつくられ、ますます日本の役割は増大している。衆院選後、岸田政権がいかに、そしてどれだけコミットメントするかが大きく問われることとなろう。
(拓殖大学海外事情研究所教授・川上高司) =おわり