《日本各地の理想と現実》都市→地方、地方→都市…「移住を希望する」両者へのアンケートで明らかになった“生活に対する不満”のリアル

“女らしくふるまう”タワマン女性は0%!? アンケートでは「遺伝的な良さ」を重視…調査分析でわかった“タワマン住人”の意外な素顔 から続く
テレワークの普及をはじめとしたさまざまな要因によって、身近になった「都市部」から「地方」への移住。一方、当然のことながら、「地方」から「都市部」への移住を検討する人もいる。都市部から地方へ、地方から都市部へ……。それぞれの移住希望者は、現状の生活にどのような不満を抱え、移住先の生活にどのような希望を見出しているのだろうか。
ここでは、日本社会を独自の視点で研究する三浦展氏の著書『 大下流国家~「オワコン日本」の現在地~ 』(光文社新書)の一部を抜粋。移住希望者とそうでない人の違い、都市部在住者と地方在住者の「移住に対する目的意識」の違いから、現代日本人の価値観を垣間見る。(全2回中の2回目/ 前半 を読む)
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「定住型男性」と「移住型女性」の価値観の差が大きい
「現代日本人の意識と価値観調査」(編集部注:下流社会15年後研究会が2020年11月に行った調査。日本在住の25~54歳男女2523人を対象にしており、三菱総合研究所「生活者市場予測システム」の2020年6月調査のサンプルに追加質問を行った)によると、今後移住を考えている人と考えていない人の「日本認識」の差は少なくない。
男女の差はもっと大きいので、移住を考えている女性と考えていない男性の差が顕著である(年齢による差はあまりない)。
移住を考えている女性が考えていない男性より10ポイント以上多い意識としては、以下のようなものがある。
・結婚しなくても幸せに生きられる社会にするべきだ ・LGBT(同性愛など)の差別をなくすべきだ ・夫婦別姓でもよいようにするべきだ ・女性がもっと有利な条件・高い年収で働けるような社会にするべきだ ・男性の家事や育児の時間が短い ・有給休暇やリモートワークなどによって時間と空間を自由に使う暮らしがしたい ・児童虐待への対策が遅れている ・まわりの目や声が気になる生きづらい世の中になった ・女性が政治や経営のトップに少ない ・同性婚が認められていないのは問題だ ・サラリーマン以外の働き方をしても安心して生きられるようにすべきだ ・セクハラ、パワハラが多い ・見合い結婚もいいと思う
明らかに結婚、性別、家事・育児、働き方に関する項目が多い。結婚をしてもしなくてもいいし、同性同士が結婚してもいいし、夫婦別姓でもいいし、逆に見合い結婚もいいかもしれない、というように、結婚に対して多様な価値観を求めていることがわかる。
またリモートワークなどで時間と空間を自由に使いたいし、まわりの目や声を気にしないで生きたいし、サラリーマン以外の働き方もしたい。もちろん女性の働く条件はもっと向上するべきだし、女性が政治や経営のトップに立つことも増えるべきであり、セクハラ・パワハラはもちろん問題外だと思っている。
ひとことで言うと、人間の、特に女性の多様な生き方に関する認識について、「定住型男性」と「移住型女性」の差が大きいわけである。
移住したい地方在住女性はジェンダー的な問題に不満が多い
次に、移住を考えている女性の地域差(居住地による差)を見てみる。
まず東京圏(1都3県)と関西圏(大阪・京都・兵庫)と地方(東京圏・関西圏以外)に分けて集計し、東京圏と地方を比較してみる。
すると地方で多いのは「地域のつきあいがわずらわしい」という地方らしい問題、「男性の家事や育児の時間が短い」「LGBT」「女性が政治や経営のトップに少ない」といったジェンダー的な問題などが上位を占める。
なお、地方なのに「教育にお金がかかりすぎる」が1位なのは、地方では所得が低いのに塾などにかかるお金が増えているからであろう。
個人的なことを言えば、1970年代に中学・高校・大学を受験した私の時代、新潟県の上越市という地方中規模都市には塾は1つしか存在しなかった。塾に行くのは例外的だったのだ。今は中学時代から塾に行くのは当然らしい。もしかすると中学受験のために塾に行く子どももいるだろう。
東京圏から移住したい女性は現代社会に疑問を持っている
逆に地方が東京圏より少ない項目は何か。「有給休暇やリモートワークなどによって時間と空間を自由に使う暮らしがしたい」という、働き方に関する項目が1位となった。
「農業もしながら暮らしたい」「貧しくても心の豊かさがある社会にすべきだ」「地方の自然やゆったりした生活を維持するべきだ」「日本の伝統的な職人文化を再評価するべきだ」といった、都会にはない豊かさ・ゆとりあるいは伝統文化を地方に求める意見も多い。
「日本の社会に閉塞感(出口が見えない感じ)がある」「今の時代には空虚感(むなしさ)がある」「個人が夢や希望を持てなくなった」という項目も、東京圏の女性のほうが多い。
総じて都会生活に疲れている、もっと言うと近代主義的・競争主義的な価値観・生活に疲れている、あるいは疑問を持っている女性が地方への移住を考えているようである。
なお、「夫婦別姓でもよいようにするべきだ」「同性婚が認められていないのは問題だ」「男性の育児休暇を義務にするべきだ」「セクハラ、パワハラが多い」については、地域差はあまりない。
「正規雇用や非正規雇用の区別をなくして、みんなが能力やライフスタイルに合わせて契約をして働くほうがよい」「氷河期世代・ロストジェネレーションへの支援が足りない」といった働き方についての意見も地域差はなかった。
東京圏で移住したい女性は高学歴・正規雇用・高年収が多い
また女性の移住希望者の属性をmif(編集部注:三菱総合研究所による生活者市場予測システム)の2020年6月の調査から集計してみた(そのため、これは追加調査の「日本人の意識と価値観調査」とはサンプルが異なる)。
すると、東京圏の女性と地方の女性の差は意外なことにあまり大きくなかった。
移住希望者の年齢は移住を希望しない人より若めであり25~29歳が多く、よって未婚者が多く、子どものいない人が多い。ただし地方では移住希望者で未婚者の割合が東京圏より少なく、したがって子どもがいる人がやや多めである。
学歴は東京圏も地方も、移住希望者が希望しない人より4年制大学卒の割合が5ポイント多い。高学歴化が移住希望を高めるのである。
就業状況は移住希望者のほうに正規雇用が多い。また東京圏は移住希望者と希望しない人の正規雇用率の差が8ポイントと大きい。東京圏では正規雇用であることが移住希望を高めると言える。
年収は、東京圏では移住希望者のほうがやや高い。
また、移住希望者は東京圏でも地方でも生活全般満足度が低い。分野別で特に不満が多く、かつ移住希望しない人との差が大きいのは、東京圏では、仕事・学業、能力発揮である。
地方で特に不満が多く、かつ移住希望しない人との差が大きいのは、仕事・学業、能力発揮、ファッション、友人・知人との付き合い、地域の方との付き合いである。
ストレスの原因についての質問では、東京圏の移住希望者は仕事上の人間関係、経済的な問題を挙げる人が多く、移住希望しない人との差がどちらも8ポイントと大きい。
地方の移住希望者のストレスは、親あるいは配偶者の親との関係が多く、地方独特の古い家族観がストレスになっていると言える。
東京圏で働く彼女たちの不満とは
東京圏の移住希望女性が持つ仕事上や能力発揮への不満とは何だろうか。
具体的にどういう不満を抱えているのかはわからないが、たとえば東京圏で働く彼女たちの不満には、こんなものもあるかもしれないと想像する。
・シェアビジネスを始めたいが、今勤めている企業はあくまで物をたくさん作って売ることだけが使命であり、シェアでは儲からないと上司に言われる。 ・化学メーカーに勤めており、自分としては自然派の洗剤を作りたいが、あくまで合成洗剤しか作れない(実際にこういう経験をした女性がその後アメリカに留学し、今は日本でまちづくりなどの仕事をして大活躍している例がある)。 ・今問題になっているマイクロプラスチックをなくしたいが、現在勤めている企業では対応が難しい。個人的には木や陶磁器の製品が好きなので、そうした分野に進めないか悩んでいる。 ・不動産企業で再開発事業をしているが、古い家や店を壊さずにリノベーションして使い続ける仕事がしたいと悩んでいる。 ・フェアトレードに関心があるが、今勤めている企業は低開発国から買いたたくことで利益を得ているのが悩ましい。
つまり、東京の最先端で働いている女性だからこそ、環境やシェアリングなどについても最先端の情報を得ており、それらの問題を解決する仕事をしたいが、現在の職場では遅々として進まない、という悩みかもしれないのである。東京圏の移住希望女性で高学歴・正規雇用・高収入の人が多いことからも、その仮説はある程度想定される。
東京から移住したい女性はシェアリングに関心が高い
そこでさらに、東京圏在住女性の移住希望者の特徴をシェアリングやエコロジー関連の質問とのクロス集計から見てみよう。
私の取材経験から言っても、移住経験者はシェアハウスに住むなどシェアリングとの親和性が高い。実際mifでも、シェアハウスに住んでいるかどうかに「あてはまる」人は移住を近々考えている人が多めである。
また民泊、会議室、ウーバーなどの輸送サービス、カーシェア、衣服のシェアなども、それらを利用している人ほど移住希望者が多い。
シェアハウス、民泊に住む人は他者とフランクにコミュニケーションできる、あるいはそのコミュニケーション自体を楽しもうとする人が多いので、見知らぬ移住先でもうまくやっていける自信があるのだろう。
また東京圏で移住希望の女性は、旅行好きであり、体験したい旅行内容についても「自然にふれること」「土地の文化を感じること」「名所・旧跡・遺跡を訪れるなどの観光」などが多く、自然・文化・歴史に関心が高いことがわかる。
自然志向については、現在の生活で「無農薬・有機農産物や食品添加物を含まない自然食品を利用する」とか「天然素材のオーガニック化粧品、自然派化粧品を利用する」といった傾向が強い。
また彼女たちは地方の良さを活かした暮らしに関心が高い。「自然や地球環境を大事にしたい」「自然が豊かな場所に住む」「地域固有の自然や文化の保全が不十分」であることを重要な問題、あるいは早急に解決すべき問題と考えている人が多いのである。
このように、東京圏から来る可能性のある移住希望者はシェアリングやエコロジーに関心が高い。それぞれの地方固有の町の歴史・文化・街並みの活かし方にも関心がある。地方に移住したら、仕事をしながら、シェアリングやエコロジーに関わる活動やまちづくりができるということが、大きなインセンティブになりそうである。
他方、地方ではあいかわらず東京をまねた都市再開発も盛んであり、駅前に高層ビルを建てれば若者が戻ってくると勘違いしているような政策がとられることも少なくない。
【前編を読む】“女らしくふるまう”タワマン女性は0%!? アンケートでは「遺伝的な良さ」を重視…調査分析でわかった“タワマン住人”の意外な素顔
(三浦 展)