『運転ミス』とされた事故が一転し『あおり運転』で在宅起訴 バイク男性が死亡の事故 車運転の男は「予想外で妨害の意思はない」と無罪主張

おととし5月に起きたバイク事故で大阪の1人の男性が亡くなった。事故当初、並走していた車の「運転ミス」で事故が起きたとされていたが、ドライブレコーダーの映像や後続車の証言から「あおり運転」だった可能性が高まっている。取材班は車を運転していた男を直撃取材。はたして「あおり運転」はあったのか。1年以上にわたる追跡取材で事故の真相に迫っていく。
おととし5月、石川県白山市の北陸自動車道で事故が起きた。現場には大破した大型バイクが残されていて、道路を隔てた先にはヘルメットが転がっていた。この事故で、大型バイクを運転していた黒川敦愛さん(当時76)が死亡した。

その後、警察は「並走していた車が事故を引き起こした」などとして、JR西日本の職員・本松宏一容疑者(44)を過失運転致死容疑で書類送検した。

事故から1年以上が経った去年9月、取材班は「捜査が急展開した」という情報を掴み、事故現場へと向かった。
(記者リポート 去年9月)「車とバイクの位置関係を細かく確認しています。事故当時、あおり運転があった状況を再現しているものとみられます」
“過失運転”として処理された事故が、一転して“あおり運転”だった可能性が浮上していたのだ。事実上の「捜査のやり直し」。

現場では、黒川さんの大型バイクに見立てた白いバイクと、本松容疑者の車と同型種を走らせ、6時間にも亘って実況見分が行われた。

そして、今年2月。金沢地検は「あおり運転」が事故の原因だったとして、本松被告を過失運転ではなく、危険運転致死罪で在宅起訴した。

一連の捜査の中で何が起きていたのか。今年11月5日に遺族側の代理人弁護士が取材に応じた。
(遺族側の代理人 冨宅恵弁護士)「(遺族が)後続車のドライブレコーダーを見られて、おそらく見られた直後に『大変な事故なんです』という連絡を受けました。(Q映像を見て率直にどう思った?)かなりショッキングな映像でした。これはもう意図的にやっているとしか考えられない」

再捜査のきっかけとなったのは、黒川さんの後方を走っていた知人女性のヘルメットに設置された“ドライブレコーダーの映像”だった。

取材を進めると、記録された映像の内容が少しずつ見えてきた。
証言などを基に映像を再現した。現場となった北陸自動車道は2車線。追い越し車線を走る黒川さんと女性のバイク。左前方を走る白い車が、本松被告の車だ。

2人に気付いた本松被告は、黒川さんに抜かされまいとスピードを上げた。前方の黒い車に追いつくと、無理やり車線変更を行い2人の間に割り込んだ。

そして、急激に減速。映像には2度減速する様子が映っていた。
この時、後ろにいた女性は、事故当時のことを次のように証言している。
(後続の女性)「急に減速してきたので、急ブレーキをかけた。時速100kmから60kmまで減速して、転倒するかと思った」

女性が無線で黒川さんに「邪魔されている」などと伝えると、黒川さんは「左に寄って待つ」と答えたという。
黒川さんがバイクを左車線に移すと、本松被告の車が急加速し、並走した時だった。車が左側に幅寄せし、バイクはバランスを崩して転倒した。
映像には「あおり運転」とみられる様子が記録されていたのだ。

一体なぜ、このような「あおり運転」を行ったのか。
捜査が続いていた去年9月、取材班は本松被告を直撃した。
(記者)「本松宏一さんで間違いない?」 (本松被告)「はいそうです」 (記者)「北陸自動車道で本松さんの運転が原因で大阪の男性が亡くなったという話を聞きいているがそれは事実?」 (本松被告)「はい、はい」 (記者)「あおり運転や危険な幅寄せが原因で亡くなったという話を聞いているが?」 (本松被告)「私はそんなつもりはないと思うのですけれども」
取材に対して『あおり運転はしていない』と話す、本松被告。

(記者)「車線変更をしただけということ?」 (本松被告)「(車間距離が)離れていると思っていたと思うんですね。その時は」 (記者)「後方に(黒川さんのバイクが)いると思っていた?」 (本松被告)「そうですね。(追い抜かして)前に入れるだけの余裕があったんじゃないかなという。基本的には私の運転ミスなのかなと。私が100%悪いというのは間違いないんですけども」 (記者)「どういう意味で100%悪いと?」 (本松被告)「私の運転ミス。確認不足による車線変更だとは思っているんですけど」 (記者)「すぐに110番をしなかった理由は?」 (本松被告)「やっぱり、すごく動転しないですか?(自分の運転で)なにかあったとなったら、とは思うんですけど。ルームミラーに見えたので」 (記者)「どういうものが見えた?」 (本松被告)「何かが横切っていくのを(見た)。それと音が聞こえたんですね」 (記者)「音?どんな音が聞こえた?」 (本松被告)「カンっていう音ですね。もしかして自分のせいなのかなと」
事故はあくまで「運転ミスが原因だった」と話した。

今年11月、黒川さんの親族の男性が取材に応じた。黒川さんは会社の経営者で仕事に熱心だったという。
(黒川さんの親族)「すごく大事にしていた時計らしくて、お義父さんのパワーをもらおうかなと思ってつけています。家でもずっと、会社の若い子がどう成長したとか。もうなによりも仕事が好きで。ちょっと憧れましたね」
事故のあと、ドライブレコーダーの映像を見た遺族。「運転ミス」という本松被告の主張を否定する。
(黒川さんの親族)「全く想定していなかったですね、あんな映像。運転って、ひとつひとつ意図があると思うんですよね。その映像を見る限りでは、まるで当てにいっているようなふうに見えましたので」
事故直後、遺族に反省する姿を見せていたという本松被告に対し、裁判ではなにを求めていくのか。
(黒川さんの親族)「どんな意図があって、どんな思いがあってそういう運転をしていたのかということと、結構な急ハンドルでしたのでね。実際の状況や思いを聞きたいなと思いますね」

そして、11月15日、金沢地裁で裁判員裁判が始まった。争点は「通行を妨害する意思があったのかどうか」。
検察側は冒頭陳述で次のように指摘した。
(検察側)「やむを得ない事情がないにも関わらず、黒川さんの約1m前方から走行車線へと侵入し、著しく車両を接近させた。指示器さえ出さず、通行を妨害する意思はあった」

一方の本松被告側は、「無罪」を主張した。
(被告側)「黒川さんとスピード差もあったので、『車線変更しよう』と思ったが、黒川さんが数秒間に急加速したため、車両同士が接近してしまった。予想外だった。妨害の意思はない」

取材班は裁判後、本松被告に再度真意を聞き出そうと直撃した。
(記者)「車線変更ではなく故意による幅寄せだったのでは?遺族には、改めてどんな思いですか?」 (本松被告)「…」 (弁護士)「公判で我々がしゃべる内容なので、ここでは話しません」
取材に口を閉ざした本松被告。
「あおり運転」は裁判で立証されるのか。判決は12月7日に言い渡されることになっている。