三原じゅん子の圧倒的貫禄、山本太郎は10円ハゲに…有名政治家の“初登院日”を振り返る

政治は私たちの生活と隔絶された遠い世界の話ではありません。政治に無関心で生きることはできますが、政治と無関係に生きことはできないからです。

国会議事堂

そして投票される側、政治家たちも当落にかかわらず私たちと同じように暮らしを送っています。政治家も一人の人間なのです。
そうした政治家たちの人間味をもっとも垣間見ることができるのは、選挙後の初登院日です。近寄りがたく、どことなく一般の感覚からズレているようにも思える政治家も、やはり人の子です。当選した喜びは何事にも代えがたく、初登院日にはそれまで見たこともないような顔を見せます。
首相官邸や政界の取材歴が10年超のフリーランスカメラマン小川裕夫(@ogawahiro)が、これまで何回も見てきた初登院日の様子を交えながら、第49回衆議院議員選挙後の初登院日だった11月10日の様子を伝えます。
◆独特な雰囲気を放つ初登院日の正門
第49回衆議院議員選挙の当選者は、11月10日に招集された特別国会が初仕事になりました。
普段は堅く門を閉ざしている国会議事堂ですが、初登院日だけは違います。正門が開け放たれ、そこに登院する議員が続々と集まります。その議員を取材するために報道陣も多く集まり、そして議員を応援してきた支援者もお祝いに駆けつけます。
そのため、初登院日の正門は独特な雰囲気を放つ“お祭り”模様となるのです。私は、これまでに衆参問わず初登院日を何回も取材してきました。その雰囲気は独特で、毎回のようにドラマが生まれています。
◆一番乗りを狙って待機する議員も

れいわ新選組からは、3名の衆議院議員が当選。左から大石晃子議員・山本太郎議員、多ケ谷亮議員

初登院日は、国会の正門が開け放たれます。そのため、開門一番乗りを果たそうと早朝から待機している議員がいることは珍しくありません。
今回、一番乗りを果たしたのは日本維新の会から出馬して初当選した阿部司議員です。他方、特に一番乗りにこだわらずマイペースで登院する議員もいます。

◆あえて正門を避けるベテラン議員も
初登院日は、初当選した新人議員をお祝いする雰囲気になりますが、初登院日に正門を通るベテラン議員もいます。
初登院は新人議員だけの日ではないのです。とはいえ、混雑するため、あえて正門を避けるベテラン議員は少なくありません。
今回の衆院選はコロナ禍による選挙となりました。落ち着きを見せているとはいえ、いまだ余談を許さない状況です。そのため、登院した議員も、みなマスクを着用していました。これは、2019年に実施された参議院選挙には見られなかった光景です。
◆ネット生中継をする支援者やYouTuberも

平井卓也議員を小選挙区で下した小川淳也議員は、ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」でも話題に

国会正門の内側は国会記者記章と国会記者証材の2つのパスがないと入れません。これらのパスは、国会記者クラブ加盟者を中心に付与されます。希望しても全員分が付与されるとは限りません。
そのため、一部のメディアやフリーランスの記者は国会正門の外で取材することになります。多くの取材陣は正門の外で議員を待ち構えているのは、取材パスの関係からです。
近年は、報道陣に加えてネット生中継をする支援者やYouTuberなども国会正門に集結するようになっていますが、正門の内側に入ることはできません。こうした点から考えると、国会正門の外にいる報道陣の数が注目度のバロメーターともいえます。
今回は衆院選後の初登院日でしたが、実は参院選後の初登院日のほうが盛り上がります。それは、衆議院と参議院の選挙制度による違いが一因です。

◆新人とは思えない貫禄があった三原議員

2010年の参議院銀選挙で初当選した三原じゅん子議員。土砂降りの中でも、存在感を発揮

衆議院は小選挙区とブロックごとに割り振られた比例区が採用されています。他方、参議院は都道府県ごとの選挙区と全国比例による選出です。
全国比例はその名の通り全国を選挙区とするので、各党は少しでも票を集めようと芸能人やスポーツ選手といった多くの人に顔が知られている候補者や知名度の高い候補者を擁立する傾向にあります。衆院選に芸能人やスポーツ選手が出馬しないわけではありませんが、参議院は知名度を効果的に活用しやすい選挙制度ですから、芸能人やスポーツ選手が多く出馬します。
そうした事情もあって、参院選後の初登院日の方が盛り上がります。例えば、2010年に実施された参議院議員選挙では、女優の三原じゅん子さんが自民党から全国比例で出馬。見事に初当選を飾りました。
雨が激しく降る初登院日、三原議員は開門時間には姿を見せずに1時間以上が経過してから現れました。女優だけあって周辺に放つオーラも凄かったのですが、初登院で喜びを爆発させている議員を横目に、淡々と、それでいて粛々と報道陣に対応している様子は新人議員とは思えない貫禄でした。
◆円形脱毛症を発症していた山本議員

2013年の参院選で初当選した山本太郎議員。側頭部には、選挙戦で心身の消耗が激しかったことを物語る円形脱毛症が

2013年の参議院選挙では、山本太郎議員が東京選挙区から出馬して初当選しています。山本議員は政党に所属せず、無所属で選挙戦を戦いました。
無所属での選挙戦は組織に頼ることができません。手伝ってくれるボランティアはいますが、それでも自分でこなさなければならない事務・雑務はたくさんあります。
一人で選挙戦を戦うことは体力的・精神的な消耗が大きく、選挙期間中に山本議員は円形脱毛症(いわゆる10円ハゲ)を発症。2013年の初登院日は祝福ムードに包まれながらも、頭皮には痛々しさを残していました。
山本議員は2019年の参院選で落選しますが、今回の衆院選では東京ブロックから比例単独で出馬。見事に当選して復活を遂げています。
また、山本議員が旗揚げしたれいわ新選組は、南関東ブロックで比例復活した多ケ谷亮議員、近畿ブロックで比例復活した大石晃子議員の計3名の当選者を出しています。

◆米山議員の妻・室井佑月さんは現れず
新潟5区から出馬して元新潟県知事対決を制したのは、無所属の米山隆一議員です。米山候補は新潟県知事を辞任後、作家の室井佑月さんと結婚。
今回の選挙戦では、室井さんが一緒に街頭演説を回るなど強力にサポートしました。

米山議員は元新潟県知事対決を制した。初登院日は、妻で作家の室井佑月さんも姿を見せるかも? と報道陣の間では期待が高まっていた

初登院日は、事前に申請すれば家族も国会正門を通ることができます。そのため、米山議員と一緒に室井さんも姿を見せるのではないか? と居並ぶ報道陣は期待を膨らませていました。しかし、米山議員は一人で初登院しています。
◆大金星をあげた新人議員といえば…
米山議員と同じく、鹿児島県知事から国政へ転身した三反園訓議員も初登院日の国会正門に姿を現し、報道陣に抱負を述べていました。

ニュース番組解説員から鹿児島県知事に転身した三反園訓議員。今回の衆院選は鹿児島2区から無所属で出馬し当選

大金星をあげた新人議員といえば、東京8区で当選した吉田晴美議員です。吉田議員は国土交通大臣や自民党幹事長などを歴任した石原伸晃候補を相手に勝利。石原候補は比例復活もできませんでした。

吉田晴美議員は石原伸晃議員を相手に比例復活も許さない勝利を飾った

◆藤原議員の心境は、今回が“真の初登院”か?
初登院日は新人議員にとっては、晴れの舞台です。しかし、ベテラン議員でも初登院日に国会正門に姿を現し、取材に応じることがあります。
今回は自由民主党の藤原崇議員、立憲民主党の小川淳也議員、国民民主党の玉木雄一郎議員などが姿を見せました。

藤原崇議員は小沢一郎議員から大金星をあげた

藤原議員は2012年の衆議院選で岩手4区から初出馬。岩手4区は自民党幹事長や生活の党代表を歴任した小沢一郎議員の地盤です。岩手4区は一票の格差を是正する目的から2017年の衆院選前に廃止され、現在は岩手3区に組み込まれています。
岩手3区になっても、藤原議員は小沢議員と小選挙区で戦いました。それでも小選挙区で勝つことはできませんでしたが、今回の衆院選は小選挙区で初勝利を飾りました。小選挙区で敗北した小沢議員は比例復活していますが、大物議員を相手に大金星をあげた藤原議員の心境としては、今回が“真の初登院”だったのかもしれません。
◆玉木議員と小川議員には注目が集まる

国民民主党の代表を務める玉木雄一郎議員は、さりげなくネクタイも国民民主党カラー

国民民主党は日本維新の会と連携するのではないか? と言われているだけに、報道陣にとっても国民民主党の動きは気がかりです。国民民主党の代表を務める玉木議員には、そうした質問が相次ぎました。
立憲民主党は近く代表選が予定されているので、出馬に意欲を示している小川淳也議員の発言に注目が集まることは自然な成り行きです。
さて、初登院日の永田町にお祭りムードが充満しますが、いつまでも浮かれているわけにはいきません。政治が向き合わなければならない課題は目の前に山積しています。
コロナで疲弊した国民の生活をどう立て直すのか? 成長するための経済政策は? COP26で話し合われた気候変動に日本はどう向き合うのか? これらを解決するためにも、当選した議員には重い責任がのしかかります。
<取材・文・撮影/小川裕夫>
フリーランスライター・カメラマン。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経てフリーに。首相官邸で実施される首相会見にはフリーランスで唯一のカメラマンとしても参加し、官邸への出入りは10年超。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)などがある Twitter:@ogawahiro