我流~社会部発 学校は少年の「心の声」を拾ったか

少年の内面に触れ、危険な兆候をつかむ機会はなかったのだろうか。愛知県弥富(やとみ)市の市立中で3年の男子生徒(14)が校内で刺されて死亡し、同学年の少年(14)が逮捕された事件。動機などの背景はいまだ判然としないが、事件直後から取材していて気になったのが、学校側の対応だった。
事件のあった中学校は田畑に囲まれ、全校生徒も約140人と小規模。少年や被害生徒と同じ小学校出身という生徒も多い。地元住民は「人数が少なく、みんな幼なじみ」と話す。被害者のことも加害者のこともよく知る同級生たちの心の傷は計り知れない。
「ずっと不安そうな目をしていた。教室の様子は思い出したくないのか、話そうとしない」
2人と同学年の長女を持つ女性は、事件当日に学校から帰宅した様子をそう振り返った。長女は叫び声を聞いたほか、被害生徒の出血も見たという。女性は「今後、彼女自身がこの記憶に苦しめられるかもしれない」と不安を口にした。
被害生徒と仲が良かったという同級生の男子生徒も、帰宅後に「疲れた」とだけ言い残し、自室に籠もったという。母親は「事件の場面が頭から離れないのではないか。友達が亡くなったことに自分を責めてしまうのでは」と声を絞り出した。
凶行を目の当たりにした同級生らの心の傷をケアするため、事件後に臨床心理士の資格を持つ複数のスクールカウンセラーが学校に派遣された。こうした緊急時のケアは大切だ。だが、翻って普段から生徒たちの心の変化に向き合う姿勢があったのだろうか。学校にはスクールカウンセラーが定期的に巡回していたが、少なくとも逮捕された少年に対し、日ごろから丁寧なケアがなされていたとは思えないのだ。
少年は今年2月に学校が実施したアンケートに「いじめを受けたことがある」とし、2年時に同じクラスだった被害生徒の「不快な言動があった」などと記述していた。だがその直後、学校からの聞き取りに「今は大丈夫です」と答えたという。学校側は「解決した」と安易に判断し、市教委に報告していなかった。
いじめのとらえ方は難しい。事実の確認も容易ではないだろう。だが当時、学校がもっと少年の心の声を拾い上げ、日常的にフォローしていれば、その後の展開が変わった可能性がある。少年の言葉の真意をどこまで深く確認したのか。アンケート翌年の3年で2人を別々のクラスにしたとはいえ、学校の対応は丁寧なケアを欠いていたと言わざるを得ないのではないか。
カウンセラーの配置は全国の学校で増えている。だが同時に、教員との連携不足も指摘されている。今回も普段から教員とカウンセラーの連携があれば、もっと違った対応があったのかもしれない。学校や教育委員会、さらに国は今回の事件を教訓に知恵を絞り、不安を抱えた生徒がいつでも駆け込めるケア体制を早急に充実させてほしい。(社会部 中井芳野)