雅子さまは「私のこどもは普通より小さいのですか?」と心配されて…高齢出産に臨まれるまでの“鋭いご質問の数々”

「たった今内親王さまがお生まれになりました」雅子さまの主治医が分娩予定日を誰にも伝えなかった深い理由 から続く
「文藝春秋」2022年1月号より「愛子さま20歳『ご誕生の瞬間』」(堤治氏/山王病院名誉病院長)を一部公開します。(全2回の2回目/ 前編 から続く)
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「私のこどもは普通より小さいのですか?」
雅子さまに初めてお目にかかった時は、こちらの緊張が伝わったのでしょうか、にこやかに優しく接してくださり、医師に対する敬意と信頼の表情も見せてくださったので安心しました。陛下からは事前に、皇族であるからと言って特別な対応はしないで欲しいと言われていたこともあり、雅子さまには「受験とお産は勉強が大事です」と申し上げ、妊娠や分娩の仕組みをご説明しました。印象的だったのは、手帳に几帳面にメモをとられながら、何度も鋭いご質問をなさったことです。何事にも真面目に取り組むお人柄を垣間見た思いがいたしました。
テキストとして、私が監修した『初めての妊娠』(SSコミュニケーションズ)をお渡ししてありました。ある健診のとき「私のこどもは普通より小さいのですか?」とご質問があり驚いたことがあります。テキストでは、その時期の身長は(足の長さもふくめ)5センチと書いてあるのに、3.5センチしかないことを心配されたようでした。健診では、頭からお尻までの長さをご報告していたためその差が生じたのです。雅子さまはテキストをすみずみまで読み込んで頭に入れておられたのです。産婦人科医を40年間やってきて、そこまで読み込まれる産婦さんはおられませんでした。説明不足をお詫びしご理解いただきましたが、雅子さまの熱心さにこちらも身の引き締まる思いがいたしました。
高齢出産で体調管理に励まれた
お散歩やエクササイズも妊娠各時期にご指示申し上げると、きっちりその指示通りに、例えば、散歩を30分と申し上げれば、ストップウォッチで測られたかのように30分という具合に、模範的な妊婦生活をお送りいただきました。高齢出産ではありましたが、妊娠中からご夫婦仲良く体調管理に励まれたことが安産に結びついたと思われます。
妊娠中からご出産までお側にお仕えしてありがたかったことの一つに、雅子さまの定期的な妊婦健診に、陛下がご都合をつけ、ご一緒に宮内庁病院にお越しいただけたことがあります。超音波画像をご夫婦そろって見て頂き、はじめは小さな点のようにしか見えない生命が育っていく過程をお二人で見守られました。お腹の中の愛子さまが大きく成長して活発に運動される仕草をお二人が嬉しそうにご覧になって、お互いの目を見つめられお気持ちを通じ合わされている姿に、お二人の仲睦まじさを目の当たりにした気がしたものです。
皇后さまの健康に気を配り、皇后さまを守る
20年前は、妊婦健診は妊娠した女性だけが受診すればいいという考え方がまだ一般的でした。そのためご多忙な陛下が健診に同行することに批判的なメディアもありました。陛下はメディアの後ろに国民がいることは十分ご承知で、側近を通じてメディアの動向は把握しておられたと拝察いたします。しかしながら陛下が動じることはありませんでした。夫として、また生まれてくる子供の父として、皇后さまの健康に気を配り、皇后さまを守るという強いお心の表れで、雅子さまは本当にお幸せだと感じました。
妊娠中の妊婦健診は近年、夫婦そろって受ける風潮が定着しています。現在山王病院では、ご主人が一緒に来院され、胎児の超音波像を見て父性に目覚める方が少なくありません。妊娠出産は夫婦がともに協力すべきものと、陛下がご自身の行動で国民を導いてくださったとありがたく思うものです。
性別を知らせなかった理由
陛下の思いやりや深いお考えを身近に感じたのは、健診だけではありません。当時、世間の大きな関心を集めていた性別の告知もその一つでした。性別は妊娠の早期でも超音波検査で知ることができます。性別を知らせるか否かは、夫婦の考え方次第ですが、今は10組のご夫婦に尋ねると8組か9組の方は教えてほしいと答えます。
陛下にご確認すると性別を調べ知らせる必要はないとはっきりおっしゃられました。ちょうどその頃、女性天皇、女系天皇の議論があり、妊娠中に性別を知らせることで雅子さまのご負担が増えることがないようにというお心配りだったのでしょう。陛下の雅子さまへの思いやりであったと拝察するものです。
常に周囲に心を配る、お優しい思いやり
陛下の思いやりといえば、時代も場所も異なりますがこんなこともありました。陛下は水や環境へのご関心も高いことはよく知られていますが、私が携わっていた「ダイオキシン2007国際会議」の開会式に行啓いただいた時のことです。流ちょうな英語でスピーチを賜り、世界中から集まった人々から「今大会で一番のお話だ」と言っていただき、誇りに思ったものです。
その開会式のアトラクションで、「高嶋ちさ子 12人のヴァイオリニスト」に演奏してもらいました。高嶋さんはMCの中で、母乳保育をしている母親の一人として環境問題への関心を述べたのですが、陛下はお帰りの際、「お仕事も育児も頑張るようにと高嶋さんにお伝えください」とのお言葉を私に託されました。高嶋さんは「あのときの言葉は本当にありがたかった」といまだに感激しています。常に周囲に心を配る、陛下のお優しい思いやりは、御用掛を務めていた時からたびたび感じることでした。
いたずらっぽく「脱輪したんですって」
東宮御所に伺う際は、自分の車を運転して参上するのが常でした。ある晩、御用地の中で普段通らない道を遠回りしたところ、思いがけず道を踏み外し脱輪してしまいました。前にも後ろにも進めなくなってしまったため、暗い夜道を歩いて東宮職の方に助けを求め、大勢の方に車を助け出してもらったことがあります。
誰が報告したのでしょうか。次にお目にかかった際、陛下はいつも通りで何もおっしゃいませんでしたが、皇后さまは「脱輪したんですって」といたずらっぽくお尋ねになり微笑まれました。陛下は陛下らしい気配りをされ、皇后さまは周囲の者の失敗にも優しく接してくださる。まったくお恥ずかしい話ですが、そんな前向きな解釈をして自らを慰めました。

山王病院名誉病院長・堤治氏による「 愛子さま20歳『ご誕生の瞬間』 」の全文は、「文藝春秋」2022年1月号と「文藝春秋digital」に掲載されています。
(堤 治/文藝春秋 2022年1月号)